米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在 上智大学教授・前嶋和弘
依然としてある白人との「所得格差」
キング牧師らが中心となって人種差別撤廃を求めた公民権運動の結果、1964年に「公民権法」が成立しました。それから数えてちょうど今年は50年です。法的な平等が完全に保障され、状況は改善されたとしても、所得格差はまだ歴然としてあります。アフリカ系の失業率は10.9%強と白人の4.8%の倍です。経済問題と犯罪が直結するのはどこの国でも同じです。 かつては奴隷制をもっていたアメリカ社会にとっては、人種差別意識は、歴史上の最大の汚点ですが、同時に人種差別を克服することは最大の目標でもあります。ただ、移民国家であり、見知らぬ人が近くに移り住んでくることが頻繁にあるアメリカにとっては、「差別が完全にない社会」はなかなか達成できない目標でもあります。差別は心の問題であり、ステレオタイプでほかの人をみてしまうのが、人間の性です。 ただ、アメリカが人種差別的な行為や意識に非常に敏感なのは確かなことであり、そのため、メディアは大きく報じ、現在の抗議デモにはアフリカ系だけでなく、多くの白人も加わっています。経済格差や“心の問題”が解決するのはまだ先かもしれませんが、今回の事件の抗議運動に加わっている多くの白人の若者たちの姿に期待をしたいと思います。