米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在 上智大学教授・前嶋和弘
「I can’t breathe」がスローガンに
全米各地のデモ隊はガーナーさんの「息ができない」という言葉を繰り返しながら行進しているほか、プロバスケットボールの選手がこの言葉が書かれたシャツで練習をするなど、「息ができない」という言葉は人種的な偏見の苦しさを象徴するスローガンになっています。 たまたまかもしれませんが、この2つの事件以外にも11月22日にはオハイオ州クリーブランドで、おもちゃのけん銃を持ったアフリカ系の12歳の子供を発見した白人警察官が本物だと信じて射殺するという事件も起こっています。 オバマ大統領は「少数派は公平に扱われていないと懸念している」と指摘しており、ガーナーさんの事件について、司法省は人種差別を禁じた公民権法に抵触していないか、独自捜査する考えを示しています。
差別意識と「レイシャル・プロファイリング」
今回の一連の事件の最大の争点は「警察が人種差別的な意識から過剰な権力行使を行っているのかどうか」ということに尽きます。 ファーガソン事件で、ブラウンさんを射殺した警官はABCテレビの長時間のインタビューで、「相手が黒人だったから撃ったのでは」という記者の質問に対しては、「問題外だ」と否定したうえで、「相手が仮に白人だったとしても、事態は変わらなかった」と主張しています。警官は「とても怖かった」とさえ言っていますが、この言葉を額面通りにとるかどうかは、非常に難しいところです。 警察にとってみれば、やはり犯罪を行うのは、アフリカ系の方が多いという何とも言えない悲しい現実があります。実際にアフリカ系は白人に比べて投獄される割合が6倍程度高いといわれています。 窒息死させられたガーナーさんは、過去に暴行や逮捕に抵抗した容疑などで30回以上の逮捕歴があるとも報じられています。また、ブラウンさんについても、射殺されるほんの数時間前にコンビニで万引きをし、それを制止した店主に暴力を振るっている映像がファーガソン警察によって公開されています。 ただ、「アフリカ系=犯罪者の確率が高い」と判断するのは、特定の人種に対して先入観を持って取り締まる「レイシャル・プロファイリング(racial profiling)」にほかなりません。警察捜査の科学化の中で、「不審」なマイノリティ人物の傾向や特徴を調べ上げて、それを基に職質対象とすることはどうしても避けられない傾向にありますが、「レイシャル・プロファイリング」は差別そのものであり、道義的な問題があります。