糖尿病で目が悪くなること、知っていますか?【100歳まで見える目】
尿が滝のように多く出て、それが蜂蜜のように甘い…これは糖尿病の英語病名であるDiabetes Mellitusという名前の由来です。過剰な糖は体の水を奪い、大量の尿になって外に流れます。その結果、急激に進行する脱水と栄養失調が生じます。古代エジプトのパピルスに記載があり、実に3500年前から知られていたようです。人類と糖尿病の闘いは非常に古いものです。 栄養を取ると血液の中に糖分が入り、それがインスリンというホルモンの働きで体に吸収されていきます。インスリンを作る細胞が壊されるのを1型、糖分などの栄養の取り過ぎがあり、インスリンの働きが悪くなっていくのが2型です。いわゆる生活習慣病として知られている糖尿病はこの2型であり、ここからの記載は主に2型について書いていきます。 2016年の推計では、日本には糖尿病患者は約1000万人、予備軍も約1000万人いるとされ、非常に多くの人が糖尿病にかかるということが分かります。 高い血糖は細い血管を痛めてしまうため、糖尿病は細い血管が集まっている臓器である目・腎臓・神経に障害が起こります(3大合併症)。この中で、目に出てくる障害を糖尿病網膜症と呼びます。糖尿病の管理がうまくいかないと見えなくなる人がいるということです。
◇糖尿病網膜症を自覚することは難しい
網膜とは目の中の光を感じる、カメラでいうフィルムに当たる部分です。糖尿病で網膜の血管が切れて出血が生じます。さらに血管が詰まり酸欠の部分が出て、新生血管と呼ばれる悪い血管が生じます(増殖糖尿病網膜症)。あるいは血管の壁がもろくなって、網膜の中心である黄斑に浮腫が生じることもあります(糖尿病黄斑浮腫)。 大切なのは、これらの過程で視力が下がってくるのは最後の方で、かなり進行してから新生血管から大出血(硝子体出血)あるいは黄斑浮腫になり、見えにくいことに気付くことになります。自覚症状で分かりにくいため、眼科検診で糖尿病の存在に気付くこともしばしばあります。 2022年に発表された糖尿病網膜症ガイドラインによると、生活習慣からなる2型糖尿病は、発症時で約3割の方が糖尿病網膜症を発症しているとされます。このことから、見え方で困ったらではなく、2型糖尿病を指摘されたら必ず眼科受診が必要です。 糖尿病網膜症の治療にはレーザー治療と抗VEGF治療というものがあります。VEGFというのは新生血管および黄斑浮腫に関係するタンパク質ですが、21世紀に入ってこれが糖尿病網膜症に深く関わっていることが分かってきました。現在はVEGFを抑える薬剤(抗VEGF薬)があるため、かなり治療成績が向上してきました。 わが国の視覚障害認定原因の統計が取られ始めた1998年では失明原因第1位が糖尿病網膜症でしたが、最新の2018年統計でも第3位です。糖尿病の内科薬剤もほぼ毎年新薬が出ているような状況で、糖尿病診療は格段に向上しています。しかし、糖尿病網膜症は引き続き失明原因の上位に位置していると考える必要があります。糖尿病網膜症は糖尿病による合併症ですので、まずは糖尿病自体の管理が最も重要になります。