「悪の独裁者」レッテル大間違い 巨人名物オーナー・渡辺恒雄氏追悼 長嶋監督再登板・FA導入…ONと並ぶ日本球界三大カリスマ
巨人・長嶋監督復帰というのが大きな流れだったので、意外性十分だったのだろう。長嶋監督の復帰で一件落着した後に、民放の報道ワイド番組から「なぜ巨人・森監督の名前が出てきたのか話してほしい」という出演依頼があり、常勝監督招聘も選択肢のひとつだったことを語った。出演者の中に渡辺氏と懇意な財界人がいたので、「渡辺さんのリストには森監督の名前もありましたよね」と水を向けると、「確かにありましたよ」と裏付けてくれた。
独裁者の鶴の一声ですべてが決まると思われている渡辺恒雄体制だが、実は入念なチェックの末に、最後はトップが断を下すシステムになっている。第2次政権下の長嶋さんからは、「冷たい独裁者だと誤解されているけど、渡辺さんほど情に厚く、義理堅い人はいない」という具体的な話も聞いた。「ワシントン支局長時代にお世話になった先輩記者の水上(健也)さんに恩義を感じ、渡辺さんは読売のトップに立つと恩返し。重要ポストで厚遇している。なかなかできることではないよ」
カリスマはカリスマを知るということなのか。「渡辺さんと長嶋さんの関係は、2人だけにしか分からないよ。オレと中内オーナーの関係と一緒だよ。第三者には絶対に分からない」。こう断言したのが、ダイエー(現ソフトバンク)監督時代の王貞治さんだ。
2004年7月7日のオーナー会議でオリックスが近鉄を吸収合併。さらに当時の西武・堤オーナーが「もうひとつの合併が進んでいる」と爆弾発言し、球界再編、10球団1リーグ制への移行の動きが表面化した。
労組・日本プロ野球選手会は古田敦也会長(ヤクルト)のもと、12球団2リーグ制堅持を表明。史上初のストライキを敢行する大騒動に発展した。その際、オーナーたちとの団交を要求した選手会に対し、渡辺氏は「分をわきまえなきゃいけない。たかが選手が」と発言。世論を選手会支持に走らせ、渡辺氏はまさに「悪の独裁者」扱いされた。
そのときに王監督はこう言い切った。「渡辺さん特有の表現で誤解を受けているが、言っていることは正論で間違いない。雇用を決める球団オーナーと選手は対等ではないからね」