インド暮らしはまるでドリフのコント!自宅アパートの壁がいきなり崩壊する「笑えない日常」
インドに住んでいると、日本では考えられないようなアクシデントやトラブルが起きまくる!?44年間ものあいだインドと深く関わった著者が明かす、数々のノープロブレムでない出来事とは?本稿は、山田真美『インド工科大学マミ先生のノープロブレムじゃないインド体験記』(笠間書院)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 隣のフロアの会社が 挨拶なしに内装工事を開始 ニューデリーで最初に暮らした家は、4階建てアパートの1階で、フロアの半分がわが家、残り半分がテレビ番組制作会社のオフィスだった。 とは言え玄関が別々だったので、私たちはそれぞれ専用の出入り口から出入りしていた。そのため、私が隣人と顔を合わせるチャンスは、全くと言ってよいほどなかった。 どんな番組が作られていたのかは知る由もなかったが、オフィスには毎月のように新しい機材が運び込まれてきた。スタッフの数もこの1年で倍増したと聞いていたから、なかなか羽振りのよい会社だったようだ。 それはインドの経済成長の象徴でもあった。インドでは、それに先立つ1991年に経済開放政策がとられたことで、経済が急成長。テレビの需要も急増していたのだ。 それはともかく、このオフィスとわが家は、厚さ十数センチのレンガ壁を隔てて隣接していた。隣人は、普段はおおむね静かに暮らしていたので、私は壁の向こうにいる人たちの存在を気にしたことさえなかった。 ところがある朝、事情が急変した。壁の向こうから、突然けたたましい音が響きわたったのである。金槌で壁を強打するような音だった。
何事かと思い、隣家の門を警備しているガードマンに尋ねたところ、「内装工事です」という答え。どうやら、ビジネスが右肩上がりで実入りがよくなったお隣さんは、オフィスを今風に改装することを思いついたようなのだ。 それはよい。問題は、工事をするならするで、どうしてひとこと事前に知らせてくれなかったのかということだ。こんな大騒音の中では仕事もできないし、工事がいつ終わるのか見当もつかない。その日はたまたま、日本の月刊誌に連載していたインドの記事の締め切り日だったこともあり、私は次第にイライラを募らせていった。 ● 「静かにしてほしい」が まったく通じないインド人 この国に初めてやって来た日から気づいていたことだが、インド人は、とにかく騒音に強い人たちである。音楽でも、映画でも、テレビでも、ボリュームを最大にして聞くことがあたりまえだと思っているようだし、祭りの時に上げる花火も大きな音の出るものが多い。車の運転中は、必要がなくてもやたらにクラクションを鳴らしまくる。話し声も大きい。 もちろん、悪気は全くない。悪気がないだけに困るのは、「もう少し静かにしていただけませんか」という当方のお願いの趣旨が一向に伝わらないことだ。 例えば今回の内装工事にしても、日本人なら工事前に菓子折りを持って隣家へ行き、「ご迷惑をおかけします」と、ひとこと謝りを入れる。たとえ実際には騒音が出ないとしても、とにかく事前に謝ってしまう。そうやって相手の気持ちをおもんばかり、少し神経過剰なぐらい気を遣って物事を丸く収めてゆくのが、日本的な世間の渡り方ではなかろうか。 しかし、インドでそんな挨拶をされた経験は、今日まで一度もない。騒音をたてる側も、聞かされる側も、まるきり平気なのだと思う。 インドはそういう場所なのだ。いきなり始まった内装工事のことで怒ったところで、どうにもならないだろう。郷に入れば郷に従え。今日は近くのカフェで仕事をしよう。 そう思い直し、家を出ようとした、まさにその時だった。 それまで壁の向こうから響いていたガンガンという打撃音がひときわ大きくなり、あたりから茶色っぽい煙が立ち上り始めた。何が起こっているのか把握する暇もなく、メリメリという不気味な音を立てて、目の前の風景がゆらぎ始めた。 と、次の瞬間、大音響と共に壁は崩壊。赤い砂煙がもうもうと立ち昇る向こう側には、口をぽかんと開けて呆然と立ち尽くす職人の姿があった。