人とは違う香りを纏いたい。「ニッチフレグランス」の世界とは?
まるで絵画のよう。香りで表現するアートの世界
SK 何かにハマると、いろいろ知りたくなるじゃないですか。ワインだったらブドウの品種とか、産地はどこか、醸造家は誰なのかとか。ニッチフレグランスも近しいものがあって、それこそ「調香師は誰なのか」とか「香料は何を使ってるのか」とか。深掘りする材料がいっぱいあるから、ハマるのも理解できる。 TI あと物語性がありますよね。映画や小説、アートにも通じるものがある。 葛和 それでいうと「トバ パルファン」の調香師、ジャスパー・リーは元画家なんです。視覚芸術を嗅覚による表現に置き換えているんですね。2021年にデビューした香港発のメゾンですが、生産はすべてフランスで、「オンブル ヴェルト」は実にフランスっぽい香りです。 TI オンブル ヴェルト、フランス語で「緑のグラデーション」ですかね。グリーンがキーンとするくらい、すっきり香り立つのが印象的です。「フォース」は木を焼いた感じ? ヒノキですかね。あ、甘みが出てきた。香りが刻々と変化して、これもグラデーションのよう。 葛和 油絵の色彩を多層的に重ねていく技法に着想を得て、「オンブル ヴェルト」は野生の植物と木々をグラデーションのように演出しています。こういう表現は、彼が画家であった影響が大きいでしょうね。このトバ パルファンが絵画的だとしたら、僕たちのブランド「エディット」は、音楽的な発想を取り入れています。
既存のルールを飛び越えた「リミックス」発想
葛和 僕が音楽業界にいたこともあって、エディットではオリジナルの作品に新たな解釈を加える「リミックス」の手法を取り入れているんです。ファーストコレクションと呼んでいる5種は日本人調香師が作成し、セカンドコレクションと呼んでいる5種は、ファーストコレクションのレシピを開示したうえで、フランス人調香師に作成を依頼しました。 SK ファーストコレクションには、日本の素材も使われているんですね。「ユズキ」の北陸産の柚子果皮は、フレッシュでビター。柚子湯みたいに香ります。この香りをイメージして、カクテル作ったらおいしそう(笑)。 葛和 それ、いいですね(笑)。ユズキをリミックスしたのが、セカンドコレクションの「グリーン ベルベット」です。トップノートはジンジャーとピーマンで、共通するのは苦み、ビターな味わいです。ファーストを作るにあたり、調香師に伝えたのは「とにかく既存のセオリーにとらわれないでほしい」ということでした。調香の世界では、香料の組み合わせに王道の比率があったりしますが、そういうのを全部ぶっ壊してほしいと。 NU グリーン ベルベット、確かにピーマンが感じられますね......! ほかにはないというか、個性的だけど、ビターでいい香り。 葛和 そうなんですよ。最終的に「いい香りなら、いいんじゃない?」というのが、僕は最も大切だと思っていて。いい香りになるなら、香料をオーバードーズさせてもいいし、極端に減らしてもいい。こういう振りきった調香への考え方は、大手メゾンにはなかなかできないでしょうね。ニッチ香水の魅力のひとつではないかと思います。