ロッキード事件の鬼検事・堀田力「そろそろ夫婦の人生を楽しみたいと思っていた矢先に…」脳梗塞のリハビリに川柳を書き留めて
ロッキード事件(1976年)を担当するなど、敏腕検事として活躍してきた堀田力さん。57歳で早期退職し、社会福祉活動に尽力してきた。2022年末に脳梗塞で倒れたものの、89歳の現在も地域社会への働きかけを続けている。妻・明子さんと〈第三の人生〉について語り合った(構成:篠藤ゆり 撮影:宮崎貢司) 【写真】《鬼検事》と言われていた時代の堀田さん * * * * * * * ◆新聞と川柳が日々の張り合い 力 機能訓練のおかげで、最近は、字もだいぶ読めるようになってきました。 明子 夫は、大きな字は読めるので、毎朝、読みたい新聞記事の見出しに印をつけるんです。それを息子が音読するのが習慣に。ときどき時事ニュースについて、自分の考えを披露してくれることもあります。 日常生活のことは抜け落ちていても、昔の記憶は残っているようです。ロッキード事件や当時の政治、福祉活動に関することは詳細に覚えていて、しっかり話すことができます。 力 ただ、「書く」力はまだまだ。長い文章は書けません。 明子 それで川柳を始めたのよね。息子が大きな活字で書かれた川柳の本を買ってきてくれて。 力 字が大きいものはかろうじて読めるのが、幸いです。意味もわかるようになるにつれて、夢中で読んでいるうちに、自分でも作りたくなって。頭に浮かんだ川柳を、毎日書き留めています。
明子 普段の会話も、つい七五調になったり。(笑) 力 迷惑かな? 明子 そんなことないですよ。たまにくだらないものもあるけれど、面白いのもあるし(笑)。作品募集に送ったらどうかと、けしかけているんですけどね。 力 いやぁ、お恥ずかしい限りです(笑)。少しご披露すると――。 気がかりは 血圧一番 妻二番 アイディアが 出ては流れて 消えていく 生きるには 料理を教えてほしかった さまざまな能力を失ったいま実感するのは、自分のことは自分でできるようになりたい、ということ。料理を習いたいけれど、気づくのが遅かった。僕らの世代が受けた古い教育のせいもあって。 本当は男女関係なく、自分のことは自分でする能力を身につけるべきでしょう。私はすべて妻に任せるしかなくて、本当に頭が上がらない。 明子 その気持ちは受け取っておきましょう。(笑) 力 いまはまだ、日常生活の段取りがわからない。たとえば食事中、醤油をかけたくても、どうしていいかわからなかったりします。そこで浮かんだ一句。 わかること わからないこともあり ややこしねん 僕がもたもたしていると、パッとやってくれるでしょう。あれは、やめてもらえないかな。幼子が一つひとつ、生きるためにいろいろなことを覚えていくように、いま、学習中なんです。もどかしいかもしれないけれど、気長に待っていてほしい。 明子 私がやったほうが早いから、ついやってしまうのよね。
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