濃い霧の中「あと少しだ」「走れ!」...ロシア政府から幼い娘とともに逃亡する反戦派ジャーナリストを待ち受ける国境越え「最大の難所」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第47回 『「失敗したら終わり」...反戦派ジャーナリストが恐ろしいロシア政府から「極秘逃亡」 まず発信機を外せ!』より続く
「約束の場所まで連れてきた」
クルマは幹線道路を、モスクワから遠くへ、もっと遠くへとわたしたちを運んでいった。 何時間かして、道路に濃い霧が立ち込めてきた。ドライバーはスピードを落とした。娘はわたしの膝に頭を乗せ、わたしたちは不安な眠りに落ちていった。 昼過ぎ、辺鄙な村で停まった。傾いた家々が、黄色く色づいた木々の向こうに見えた。 「わたしの分担はここまでだ」 ドライバーは疲れきって言った。 「約束の場所まで連れてきた。別のクルマがここで待ってるはずだ」 この時、曲がり角から灰色のラーダの中古車があらわれ、灰色の埃をまき散らして、わたしの横で停まった。何も言わずにクルマに乗り込み、先を急いだ。
案内人、アントン
5分後にクルマは開け放たれた門から入っていった。中庭では鎖につながれた大きなシェパードが、わたしたちを見て大声で吠えだした。 「静かに!仲間だよ」 主人が犬を叱りつけた。 犬は黙ると愛想よく尻尾を振り始めた。 「アントンと呼んでくれ」 家に入ると、主人は小声で名乗った。 「俺があんたたちの案内人だ。暗くなるまで待とう。それから国境を越えよう。多分、一回じゃうまくいかない。でも心配するな。俺はここの人間だ。道は全部知ってる」 わたしは、わかったというようにうなずいた。だがこの先何がわたしたちを待ち受けているのか見当もつかなかった。数時間後、中庭に小型のルノーがやってきた。案内人のアントンが運転手の隣に座り、わたしたちは後部座席に座った。クルマは原野と畑の間を通る細い砂利道を縫うように走った。