なでしこジャパンの新監督候補とは? 池田太監督が退任、求められる高いハードル
池田監督が引き出した自主性と対応力
池田監督が3年半で残した功績は、限られた期間でしか活動できない代表チームに、クラブチームのような一体感のある雰囲気をもたらし、どんな相手や状況にも柔軟に対応できる自立したチームを作り上げたことだと思う。 10代の頃から飛び級で池田監督のチームで戦ってきた高橋はなは、「池田監督が作り上げてくれたチームはどのチームも素晴らしくて、A代表では(熊谷)紗希さんをはじめレベルの高い選手たちがいて、(年代別代表より)厚みが増したチームになり『いいチームってこういうことなんだな』と学べることが日々ありました」と大会後に振り返っている。 熱いキャラクターで選手やスタッフから「太さん」と親しまれ、繊細なコミュニケーションでモチベーターになり、サッカーでは対応力を磨いて、カウンターとリアクションサッカーに活路を見出した。 その一方で、強豪国に対しては自分たちでボールを保持しながら創造性のある攻撃を見せる機会が乏しく、所属クラブで攻撃の核を担う選手たちも、その強みを発揮することはできなかった。 佐々木氏は新監督選任に際して、「(池田監督が築いた)良い部分にプラスアルファを付け加えて、もう一つそこ(ベスト8)の壁をぶち破っていただける方」という条件を挙げた。
外国人監督も候補に。求められる理想の条件とハードル
新監督の選任に当たっては、外国人監督も視野に入れて検討が始められているという。これまで、なでしこジャパンの監督はU-17、U-19、U-20からA代表に持ち上がりで昇格するケースが多く、外国人監督は俎上にすら乗らなかった印象がある。その点では変化の兆しが見える。 新監督に求められる要素は、研ぎ澄まされた戦術的思考とコーチング力、そしてマネジメント力。戦術やマネジメントに関しては、長谷川唯はじめ、海外の最前線で活躍する選手たちと対等に渡り合える実力が必要になる。それらを兼ね備えた指導者なら、性別も国籍も関係ないと思う。 例えばアメリカ女子代表のエマ・ヘイズ監督のように“戦術カメレオン”と言われる多様な戦術の使い手で、さらに女子で指導経験豊富な人物は理想的だ。11年間で13のタイトルをチェルシーにもたらしたヘイズ監督は、パリ五輪では就任3カ月で金メダルというこれ以上ない結果を残した。 チェルシーで昨シーズン、その薫陶を受けた20歳の浜野まいかは、力強い言葉で思考や感情を言語化するようになり、表情も一気に大人びてきた。 「エマは『チェルシーはミスが許されないマシーンだ』と言い続けていて、全員がその意識でプレーしていたと思う。『負けられない』ではなくて『負けるべきじゃない』と思わされました」 同氏を筆頭に、女子サッカー最高峰と評される監督には女性も多い。イングランド女子代表のサリナ・ヴィーフマン監督や、今季からチェルシーの新監督に就任したソニア・ボンパストル監督もそうだ。 そのレベルの監督を呼ぶのに最も高いハードルとなるのは、やはり「予算」。ヘイズ監督の年俸は、7月まで同男子代表監督を務めていたグレッグ・ベルハルターと並ぶ160万ドル(約2億3000万円)と言われている。ヴィーフマン監督は、昨夏のワールドカップ時点で40万ポンド(約7700万円)とされていたが、新しい契約ではインセンティブも含めてさらに増額されている。 日本女子代表監督の年俸は公表こそされていないものの、筆者がこれまで聞いたいくつかの情報を総合すると、1000~3000万円前後。世界の潮流の変化や強豪国との間には開きがあるのが現実だ。 JFA(日本サッカー協会)の宮本恒靖新会長は、国内外から幅広く候補を探すように指示しているという。予算を増やし、スカウト網も含めて幅広く、緻密な人選が可能になることを願いたいが……。
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