視力を失っていく不治の病、「網膜色素変性症」とは かかりやすい人や兆候は
治療法の発見に向けて進む研究
たとえば、近年の遺伝子治療の進歩は、治療法の発見に向けた希望を科学者にもたらしている。米食品医薬品局(FDA)によると、可能性のある遺伝子治療としては、病気の原因となっている遺伝子を健康な遺伝子のコピーと置き換える、問題のある遺伝子を破壊する、病気の治療に役立つ新しい遺伝子や改変遺伝子を導入するなどが考えられるという。 網膜色素変性症に関わる数十件もの臨床試験の中で、こうした形の遺伝子治療は中心的なテーマとなっている。そのうちのひとつは遺伝子治療薬「ルクスターナ」で、すでにFDAの承認を受けている(編注:日本では2023年に厚生労働省により承認)。 これは、網膜色素変性症に関連する特定の2つの遺伝子の異常のみを標的とする。つまり、この治療法は患者全体の0.3~1%にしか効果がないことを意味すると、ガラニス氏は言う。 1990年代後半から2000年代初頭にかけて行われた複数の研究では、ビタミンAや、魚油やルテインなどのサプリメントが網膜色素変性症の予防に役立つ可能性が示唆されていた。しかしガラニス氏によると、これらの研究は相関関係を示すものであって因果関係を示してはいないという。 マティアス氏もこれに同意しつつ、現在、有望な臨床試験が少なくともひとつあると指摘する。この試験では、N―アセチルシステイン(NAC)と呼ばれる強力な抗酸化物質が「患者の錐体細胞が失われるのを遅らせる可能性」があるかを調べている。 また、網膜の健康を良好に保つことにより、少なくとも変性を遅らせることができると、マティアス氏は言う。そのための対策としては、健康的な食事、運動、禁煙、そして日光の下に出る際には保護効果のあるメガネを着用することなどが挙げられる。 早期発見は、患者が自立した生活を長く続けることにも役立つと、米マイアミの眼科医で米国眼科学会の広報担当を務めるニネル・グレゴリ氏は述べている。また、方向感覚や移動能力の訓練、心理的な支援などの補助的な治療も患者の助けとなる。 今後の進展が期待される動きとして、マハジャン氏は、遺伝子検査の能力が大幅に向上していることと、遺伝子付加治療、低分子薬、網膜細胞移植、視力を補助する電子機器など、多くの革新的な治療法の研究が進められていることを挙げている。 「研究には時間がかかりますが、未来は明るく、献身的な研究者とたゆまぬ努力を続ける産業界が、さらに多くの治療法の開発への希望を支えています」とマティアス氏は言う。
文=Daryl Austin/訳=北村京子