視力を失っていく不治の病、「網膜色素変性症」とは かかりやすい人や兆候は
最大の原因は遺伝子変異
米国立眼病研究所は、網膜色素変性症は感染症、薬剤、目の外傷などがきっかけでなる場合もあるとしているが、先天的である例が最も多い。 理由は、この病気の主な原因が、網膜の細胞を制御する遺伝子の変異であるためだ。問題を引き起こすのは1つの遺伝子だけではない。「100種類もの異なる遺伝子が、網膜色素変性症の原因となります」と、米スタンフォード大学バイヤーズ眼科研究所の網膜専門医で研究副部長のビニット・マハジャン氏は言う。 また、1つのタイプの変異だけが原因ではなく、各遺伝子内のさまざまな変異もこの病気の原因となる可能性がある。そのため、網膜色素変性症に関わるとされる遺伝子変異は、3100種類以上が特定されている。 とはいえ、患者の家族全員が網膜色素変性症を発症するわけではないと、マハジャン氏は指摘する。確実に発症する可能性を知るうえでは、遺伝子検査が推奨される。
発症する可能性が高い人とは
この病気は遺伝性であるため、遺伝子の多様性が低く、結果として遠縁の親戚同士の結婚が多い文化圏で発症率が高い傾向にある。 これが、特定の南アジアの住民で遺伝性疾患がより多く見られるという研究結果が示されている理由のひとつだ。「南インドでは網膜色素変性症の発症率が930人に1人と高く、また中国(北部の高齢者)では1000人に1人の割合で発症します」と、米ミズーリ州セントルイスの眼科医ジョン・ガラニス氏は言う。 ただし、「網膜色素変性症の発症が、特定の人種や民族に偏っているわけではありません」と語るのは、米コロラド大学医学部の眼科准教授マーク・マティアス氏だ。「この病気はどこででも、だれにでも発症する可能性があります」
なぜ予防も治療もできないのか
この病気の最も厄介な点のひとつは、通常、予防も治療もできないことだ。その原因は、病気を引き起こす遺伝子の変異の数が膨大であることと、網膜が中枢神経系の一部であることにある。 人間の「中枢神経系には再生能力がありません」と、クラッセン氏は言う。つまり、いったん細胞が死滅すれば、中枢神経系は基本的には再生しないのだ。 一部のケースでは、病気を引き起こしている遺伝子を特定することさえできないと、マティアス氏は付け加える。 それでも、氏によると、網膜色素変性症の治療を目的とした数十年にわたる幅広い研究が今、成果を上げつつあるという。