「みんなと仲良くしなさい」は呪いの言葉? 1万人の非行少年を見てきた犯罪心理学者が警鐘を鳴らす「危ない声掛け」
心理的距離のとり方
さて、「みんなと仲良く」の話に戻りましょう。ワタルの例のように、「みんなと仲良く」が呪いとなり、仲良くできないことに苦しんだり、仲良くできないことを何とかしようとしてトラブルになることは多くあります。 身のまわりにいる人が好きな人ばかりだったらいいのですが、そうでないことだって多いもの。嫌いな人がいるのも普通のことです。好き嫌いの感情をなくすことはできません。 大切なことはそれを認めたうえで、嫌いな人と無理に仲良くしようとしないで、現実的にどう付き合うかです。そのときにカギとなるのは「心理的距離のとり方」です。 物理的に近いところに嫌いな人がいても、心理的に距離をとって付き合えばストレスが少なくなります。極端な話、「近くにいても、心は何億光年も先の星」というくらい遠いつもりで、当たり障りなく付き合えばいいわけです。 ……と言うのは簡単ですが、実際には非常に難しいのがこの「心理的距離のとり方」です。こちらがいくら距離をとっても相手がつめてくるかもしれません。すると、それに引っ張られてこちらも近い距離で考えてしまう。結果として、ストレスをためることになります。 以前、ご近所トラブルを起こしていた人の心理分析を担当したときの話です。その人は毎日のように鍋を打ち鳴らして騒音を出し、ゴミをまき散らして住宅街を汚していました。近隣住民からは総スカンをくらい、ますます迷惑行為がエスカレートします。 心理分析をすると、実は近所の人と仲良くしたいという気持ちからこじれていたことがわかりました。仲良くしたいと思って話しかけたのが、無視されたとか誤解されたという些細なトラブルになったのがきっかけです。仲良くできないつらさを受け入れられず、迷惑行為として表出させてしまったのです。 その人にしても、トラブルとなったご近所さんにしても、心理的距離をうまくとることができていれば大きな問題には発展しなかったことでしょう。近所に住んでいるわけですから、もちろん物理的には近く、しばしば顔を合わせることになります。 しかし、心理的距離が遠ければ相手のことはさほど気になりません。顔を合わせたら挨拶をし、困っているようなら声をかける。そのくらいの距離感であればお互いに心地よい関係性になれます。 さまざまな人間関係を経験してきた大人は、このバランスをとるのが上手です。相手に合わせるのでなく、かといって相手を変えようとすることもなく、ちょうどいいコミュニケーションをとることができます。