人類が初めて「宇宙人」にメッセージを送ってから50年 何を伝え、何が起こったのか
象徴の崩壊
最後のアレシボ・メッセージ、つまりチームが「送信されなかったメッセージ」と呼ぶものは、当面の間送信されることはないだろう。 2020年、アレシボ天文台は老朽化と2017年のハリケーン・マリアによる損傷で崩壊し、送信計画は中止された。 アレシボ天文台を支援していた米国科学財団(NSF)は、天文台の修復は危険すぎると判断した。この場所が巨大なお椀型のアンテナで電波データを収集することは二度とないかもしれないが、STEM教育(科学・技術・工学・数学の学問分野に力を注ぐ教育)に焦点を当てたセンターとして残される計画がある。 世界中の科学者、特にプエルトリコの天文学者たちは、天文学の発展に大きな功績を残したアレシボ天文台の喪失を嘆いた。「天文台が崩壊したとき、プエルトリコの科学の柱の一つが失われました」とパレンシア・トーレス氏は言う。何千人もの地元の小学生と同じように、チームメンバーたちも遠足で天文台を訪れ、科学への興味をかき立てられた。 アレシボ天文台は、はるか遠くの星々からの微弱な電波信号を受信するだけでなく、これらの信号を宇宙の果てまで届くほどのパワーで送信できる地球上の数少ない装置のひとつだった。NASAの国際的な巨大電波アンテナ網が、このチームにとって最善策となるかもしれない。今のところ、新たなメッセージや今後の信号を送信する計画はないが、2024年11月、チームはオープンアクセスのアーカイブ「arXiv.org」に投稿した論文に自分たちの成果をまとめている。 最後のアレシボ・メッセージを作成したチームにとって、元のメッセージがいまだに目標に向かって進行中であるという事実は慰めだ。アレシボ天文台がなくなった後も、その遺産は長く生き続けている。 「私たちはいまだに遠くの存在と通信を試みています」とパレンシア・トーレス氏は言う。「『私たちは孤独なのか?』という長年の問いに答えようとしているのです」 「メッセージの送信から最初の500年間で、少なくとも4つの星がこの信号を受信します」とメンデス氏らは推定している。その中で最初にメッセージを受信するのは、地球から395光年離れた「Gaia DR3 1328057940089589376」という星だ。 つまり、宇宙のどこかにいる知的生命体に向けた「起きてる?」という私たちのメッセージは、宇宙の隣人に将来なりうる存在に届くまであと約345年かかるのだ。
文=Paola Rosa-Aquino/訳=杉元拓斗