木星の火山衛星イオに「マグマの海」存在せず NASA探査機データが示唆
木星の火山衛星イオの表面下にあると従来考えられていた浅いマグマの海(マグマオーシャン)は、存在しない可能性があるとする最新の研究結果が発表された。 【画像】衛星イオの火山噴火を捉えた画像と内部構造の想像図 木星の四大衛星(ガリレオ衛星)の中で最も内側の軌道を周回しているイオは、太陽系全体の中で最も火山活動が活発な天体だ。表面には400を超える火山があり、地上の望遠鏡で撮影できるほど激しい噴火を起こしているものもある。 ■木星探査機ジュノー 学術誌Natureに12月12日付で掲載された論文によると、今回の研究は、2016年から木星の周回探査と、その衛星へのフライバイ(接近観測)を行っているNASAの探査機ジュノーが収集したデータに基づくものだ。 ジュノーは2023年12月と2024年2月、表面からわずか約1500kmの距離までイオに接近し、画像を撮影した。これは、NASAの探査機ガリレオが木星の周回軌道に投入されて以降の20年以上の間にイオに接近したどの探査機よりも近くまで到達したことになる。画像は、ジュノーに搭載された200万画素のカメラ「JunoCam(ジュノーカム)」で撮影した。 ■全球規模のマグマオーシャン? ジュノーによる画像撮影と接近観測時に実行された実験によって、マグマが局所的に分布しているのか、あるいは全球的に分布しているのかが明らかになると期待された。 今回の分析の結果、木星の影響によるイオの潮汐加熱量の推定により、イオの火山活動のエネルギー源がマグマオーシャンである可能性は低いことが明らかになった。 ■潮汐加熱 イオは、潮汐加熱を理解するのに太陽系で最適な天体と考えられている。巨大ガス惑星の木星だけでなく、その四大衛星のうちのイオを除く3衛星とも、常に重力の綱引き状態にある。また、公転軌道が楕円形(偏心軌道)のため、木星から受ける重力の強さが変化する。 公転周期の約42時間ごとに継続的に引き伸ばされたり押しつぶされたりすることで衛星が変形し、摩擦による潮汐加熱が発生する。この加熱量が非常に大きいため、表面下にマグマ(地下にある溶岩)が形成されるのだ。 ■固体のマントル だが、論文によると、潮汐エネルギーの大きさが、イオの内部を全球的に溶かすには十分ではないため、地下にマグマオーシャンが存在する可能性は排除される。「イオでは、このようなマグマオーシャンの形成を可能にするには、潮汐加熱だけでは不十分であるようだ」と、論文に記されている。これにより、イオのマントル(地殻と核の間の層)の大部分が固体であることが示唆されると、論文は指摘している。 今回の発見は、木星のエウロパ、土星のエンケラドス、天王星の五大衛星などの太陽系の他の衛星に関する惑星科学者の理解に影響を与えるものだ。「これまでに見つかっている太陽系外惑星のグループでは、激しい潮汐加熱によってマグマオーシャンが形成される可能性があると広く考えられているが、イオのケースは、そうである必要はないことを示している」と、論文は結論づけている。
Jamie Carter