3億人が闘う“希少疾患” 世界初の技術「Staple核酸」で挑む新薬の開発
国内の患者の数が5万人に満たない「希少疾患」と呼ばれる病があります。 「神様って、いないんだなと思いました」 【特集】熊本大学が研究 希少疾患治療のカギとなる「Staple核酸」とは そう語るのは、熊本市在住の濱﨑将記さん。
2歳になる息子の律斗くんは、小児交互性片麻痺を患っています。突然、体に麻痺が生じたり、呼吸が止まってしまうことがある病気。100万人に1人という希少な病で、治療法はありません。 「多くは望みません。呼吸が止まったり、命に関わる重い発作は出ないようになってほしいし、そういう薬を開発してほしい」 世界に7000種あるといわれる希少疾患。患者の数は3億人、半数は子どもだといいます。その多くに治療法がないのが現実です。
世界初の技術 熊本大の研究チームが開発
こうした希少な病の薬の開発に取り組んでいるのが、熊本大学大学院の勝田陽介准教授の研究チーム。カギとなるのは、研究チームが開発した「Staple核酸」です。多くの病に、体の中のたんぱく質が関係しているといわれる中、そのたんぱく質のバランスを調節できる世界初の技術です。
勝田准教授は「希少疾患はすごい数があるけれど、僕たちの技術でひとつ上手くいくとしたら、いろんな希少疾患にも広がる可能性がある」と語ります。 「何千、何万分の1で発症する病気かもしれないけど、私たち(家族)にとっては、1分の1の存在の病気。祖母だけじゃなくて、全世界に待っている人がいると知ったので、何かできることをやりたい」と話すのは、研究チームの1人、五木結愛さん。五木さんの祖母、君子さんは、多系統萎縮症を患っています。
脳に異常なたんぱく質がたまり、徐々に体が動かなくなる進行性の病。全国に1万人超の患者がいますが、治療薬はありません。 「なんで私が。悔しい、悔しい辛いって。自分で死ねるうちに死んでおけばよかったって…」 研究チームの実験では、病の原因となっているたんぱく質を減らすことには成功しています。しかし、薬として承認されるためには、人への安全性と効果を確認する臨床試験だけでも、3~7年かかるといわれています。 成功確率は3万分の1。数百億円もの費用がかかることが、希少疾患の薬の開発が進みにくい理由の一つとも言えます。