光合成を行う生物はいつ誕生したのか?地球生命史年表が書き変わる大発見に迫る!
「生命の進化」と「生命の持つ機能の進化」とは
さて、光合成の仕組みはそういうものなのですが、問題は酸素発生型と酸素非発生型のどちらが先に地球上で開発されたのか、ということでした。それを調べるためには、「生命そのものの進化」と「生命の持つ機能の進化」の両方を考える必要があります。 というのも、生命の進化と機能の進化は必ずしも一対一で紐づいているわけではありません。機能は、特定の生物種によって独占的に発達・進化されることもあれば、また、様々な生物種を飛び回るうちに変化することや、複数の生物が進化した他能力と融合することもあります。 だからこの分野には、生命そのものの進化を調べる研究者と機能の歴史を調べる研究者がいるのですが、その成果を別々に見ているだけでは、進化の全体像を把握できません。両方を連動させたほうが、より大きなものが見えてくるはずです。 そこで僕は今回の研究で、生命そのものの進化と機能の進化をつなげるような解析手法をメインとしました。 ──つまり、バクテリアの進化と光合成という機能の進化を調べて、両者を結びつけるようなイメージですね。 そういうことです。バクテリアの進化については、1987年にイリノイ大学のカール・ウーズ博士が生物を「バクテリア・アーキア・真核生物」という3つのドメインに分けたことから、大きく進展しました。 じつは僕も、イリノイ大学の出身なんですよ。カール・ウーズは僕が入学して間もなく亡くなってしまいましたが、アーキア(古細菌)とバクテリアの違いに気づいて生物を3つに分類したのは、きわめて大きな意義があったと思います。
最新データによるバクテリアの進化系統樹
──しかし延さんは、海底堆積物の中から見つかった「MK-D1」というアーキアの研究を通して、人類を含む真核生物の祖先がアーキアである可能性を指摘されたんですよね。そうなると、生物のドメインはバクテリアとアーキアの2つになるかもしれない。 はい、そうなんです。そこはまだいろいろな議論がありますが、いずれにしても、バクテリアとアーキアが別のものであることは間違いありません。そして、カール・ウーズの分類にしたがって、アーキアとは異なるバクテリアの性質を調べてみたところ、その多くが光合成の機能を持っていることがわかりました。そのため当時は、バクテリアは最初から光合成ができたのだろうと思われたんですね。 しかしその後、培養技術や遺伝子解析の進歩で多様なバクテリアの研究が進んだ結果、光合成できるバクテリアはむしろ系統的にマイナーな存在であることがわかってきました。 ちなみに最新の系統分類では、バクテリアは4種類に分けられます。「ハイドロバクテリア」、「フソバクテリア」、2種類の「テラバクテリア」(ここでは「テラバクテリアI」「テラバクテリアII」とします)です。(最新の名前はそれぞれPseudomonadati、Fusobacteriati、Bacillati、Thermotogati)。これは「ドメイン」の下の「界」レベルの分類ですが、その中で光合成細菌を含むのは「ハイドロバクテリア」と「テラバクテリアI」の2種類だけです。 バクテリアの進化の系統(図版提供:JAMSTEC) 拡大画像表示 さらにその下の「門」レベルでは100種類ぐらいに分けられますが、その中で光合成できるものは、10分の1程度しかありません。もしバクテリアの祖先が光合成の能力を持っていたとしたら、それがバクテリア世界の少数派になるのは不自然にも思えますよね。 そこで多くの専門家たちが、あらためてバクテリア全体の系統樹を描こうと試みました。ところがどう描いても、光合成をするバクテリアが系統樹の深いところ、つまり祖先に近いところに来ないんですね。光合成遺伝子が系統樹のどこかに現れては、途中で消えていくので、それがどこから受け継がれてきたのかをたどれないんです。 ---------- ----------