光合成を行う生物はいつ誕生したのか?地球生命史年表が書き変わる大発見に迫る!
進化系統樹のミッシングリンクに挑む!
──遺伝子は上の世代から下の世代に継承されるものなのに、つながらないんですか? バクテリアは別の種類同士で機能を交換したり、一方的に受け取ったりするんです。だから、ある機能をバクテリアAがバクテリアBに渡した後、バクテリアAの子孫がその機能を失うと、バクテリアBのその機能がどこから来たのかわからなくなるんですよ。 遺伝子情報を過去から現在まで線でつなぐことができないため、いまから5年ほど前に、「光合成の進化は遺伝子情報からはわからない」と断言する論文が発表されました。それも、この分野における2人の大御所がそれぞれ別の論文で同じようなことをいったんですね。そのためこの分野の専門家たちは、光合成の進化をたどることを諦めてしまったような状況になっていました。 僕がこの研究に飛び込んだのは、その後なんですけど(笑)。 ──みんなが絶望している対象に、希望を見出したんですか? やり始めたときは知らなかったんですが、途中で「ああ、みんな諦めたんだな」と気づきました(笑)。でも僕は工学部出身で、光合成の進化についてはほとんど知識がない状態で飛び込んだので、フレッシュな目で全体を見渡すことができたと思います。もちろん、光合成研究者・進化学者がこれまで積み上げてきた膨大な知識や理論が基盤としてなければ今回の研究は達成できませんでした。 それに、僕はもともと自分の知らない分野に飛び込むのが好きなんです。その道の専門家が当たり前だと考えていることでも、自分自身が引っかかりを感じれば調べてみたい。それが研究のモチベーションになっています。
10万種以上の微生物のゲノム情報を解析した結果は
――そこに飛び込んで、どうやって絶望を乗り越えようとされたのでしょう。 まず、10万種以上の微生物のゲノム情報を導入して、先ほどお話しした4種類のバクテリアの関係性と、その中に属するあらゆる微生物の関係性を調べました。「バクテリアそのものの系統樹」を明らかにしたわけです。 その上で、光合成という機能に関係する30種類以上の遺伝子を精密に解析して、光合成遺伝子の系統樹を構築しました。こちらは「機能の進化」ですね。 その光合成遺伝子の系統樹を、バクテリアの系統樹にマッピングすることで、バクテリアそのものの進化と、光合成に関わるさまざまな機能の進化の関係性を解析しました。両者を紐づけることで、全体像を見ようとしたのです。 その結果、現存する光合成遺伝子のほぼすべてが、テラバクテリアIの系統で進化したことがわかりました。図を見てもらえばわかるとおり、その系統には、シアノバクテリア門もあります。 ちなみに上から2番目のブルカニバクテリア門は、去年、日本人の研究者が発見したものです。日本はいま微生物の培養にすごく力を入れているんですよ。ラボで培養して観察するのは、微生物研究の基盤。今回の僕の研究も、そういう人たちの頑張りのおかげで、多くのことが見えてきました。 せっかく微生物学者が新しい光合成細菌の培養に成功しても、進化学者が「どうせ進化はたどれない」と諦めていたらそれを活用できませんが、僕にとってはきわめて有効な情報なので、じつにありがたいことです。 ともあれ、バクテリアの系統樹に光合成遺伝子の系統樹をマッピングすることで、ほとんどの光合成遺伝子がシアノバクテリアを含むテラバクテリアIの系統で代々受け継がれてきたされたことがわかりました。共通の祖先から光合成機能を直系で受け継いできた子たちは、テラバクテリアIにしかいないんです。