《安倍政権5年》安保関連法で自衛と国際貢献強化 憲法解釈変更に批判も
約5年にわたる安倍政権で、日本の安全保障政策は大きく変わりました。2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する方針を閣議決定。翌2015年9月には、その方針を盛り込んだ安保関連法を成立させました。同法は10法案を一括改正した平和安全法制整備法と国際平和支援法からなるものでした。そのほか、特定秘密保護法(2013年)、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法(2017年)が成立、2014年には武器輸出三原則も見直しました。安全保障問題に詳しい元外交官の美根慶樹氏が、安倍政権の安保政策を2回に分けて振り返ります。今回は「権限編」です。 【図表】そもそも「安保関連法案」とは? 集団的自衛権をどう規定
自衛隊の地理的制約を取り払う
安倍首相は2012年の第2次内閣発足以来、安全保障体制の強化に積極的に取り組み、2015年に安全保障関連法を改正したほか、いくつかの措置を講じました。その内容は、大きく2つに分けることができます。 第1に、「自衛」を強化しました。具体的には、日本に対する脅威が増大し、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)において、自衛隊の行動範囲にかかっていた地理的限定などを取り払い、世界中のどこでも行動できるようにしました。ただし、行動は米軍の後方支援、捜索・救難などに限られています。 この法改正に基づき、2016年3月の施行以来、海上自衛隊の補給艦は日本海などで北朝鮮の弾道ミサイル発射を警戒する米イージス艦に燃料を補給しています。 また、平時においても 警護や武力行使に至らないグレーゾーン事態での対応、例えば、弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視について米軍などとの協力が強化されました。この関係でも自衛隊は2017年5月、実際に房総半島沖で任務を開始しました。 これらの行動について、政府は秘密を要するという理由で公表する場合を非常に限定していますが、それでは政府・自衛隊の裁量範囲が広がりすぎるとして批判する声が上がっています。 さらに「自衛」として武力行使(通常「武器使用」と言っています)できるのは、日本が武力攻撃を受けた場合に限られていましたが、法改正により「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」にも行動が可能にしました。これが集団的自衛権の行使になる場合であり、憲法違反の疑いが起こりました。 しかも、「存立危機事態」であれば、自衛隊は他国に対する武力攻撃を排除するために、その国の領域へ行く可能性が出てきました。しかし、安倍首相はじめ政府関係者は自衛隊が他国の領域に出ていくことはないと答弁しましたので、改正法の記載と国会説明は整合性がとれているか疑問が生まれました。