“大谷かぶと”脚光の甲冑メーカー、「効果すごいでしょって言われるけど…」手放しで喜べない事情とは
難航する職人の確保「人は宝」 社長が17年ぶり現場復帰も…
一方で、田ノ上社長は手放しで喜べない事情もあると付け加えた。 「大谷効果すごいでしょというのは言われます。もうかってるでしょ、もうかったでしょって今でも言われます。ありがたいことですけど……」 背景には地方ならではの課題があった。生産を増やすため、人手を確保したいが、うまくいっていないという。「募集はかけていますけど、人が集まらない」。中でも不足しているのが職人だ。かぶとや鎧を作る作業は、やってみなければ分からない適性がある。「弊社の場合はマニュアルがない。新しい方が入られても育つ方って本当に少ない。人は宝ですね」と実感を込めた。 9月にはキャリア15年の塗装職人が退職。塗装は重要な中間工程で、終わらなければ組み立てに入ることはできない。緊急事態となったが、代わりはいなかった。「どうするの、誰がやるの?」。悩んだ末、現場に入ったのは田ノ上社長自身だった。「僕がやるしかない」。社長として全国を回る中での作業は、時間のやりくりだけでも大変だ。もともとモノ作りは得意だったものの、すべての工程に携わっていたわけではなかった。「実際スプレー缶とか持ったことがない。塗料の種類さえ分からないままで、徹夜とかしながら塗っています」。17年ぶりの現場に体は悲鳴を上げ、3週間で体重は4キロ減少した。 「品物が出てこないことには企業は成り立たない。現場に入ることによって職人さんの大切さがより深く分かりました」 人手不足を補うため、午後9時まで残業する職人もいる。それでも、「今まで2か月待ち、かかっても3か月ぐらいだったんですけどその倍ぐらいの時間かかっていて……」と供給がスムーズにいかない状態が続いている。 「受注生産なので結構お断りもするんですね。例えば月に30個とか50個とか受注もらっても作れないのでお断りをしています」 また、材料費の高騰にも頭を悩ませている。甲冑は金属や木材、糸、布などで作られる。「業者さんはもう軒並み値上げしか言ってこないので。材料はもう常に上がり続けています。経費がどんどん上がっていますね。あと段ボール、電気代。電気代が一番調整はしやすいです」。円安に振れれば、為替の影響も受ける。 大谷効果で従業員の給料はベースアップし、これまで寸志程度だった賞与も個々の実績に応じて平均1か月分を支給できるようになった。ただ、コロナ禍では全国的な祭りの自粛もあり、見入りがほとんどない状態が2年ほど続いた。製造工場を一本化し、40人を超える従業員の雇用は維持したものの、役員の給料は現在も下げ止まったまま。田ノ上社長自身も報酬の20%カットを継続している。