平田オリザ、学校で広がる「演劇教育」他者理解に有効な訳 主体的・対話的で深い学びの実現にも
子どもよりも教員が変わる、それが大事
ただし、演劇教育をやったからといって、子どもたちが大きく変化するというわけではない、と平田氏は率直に述べる。 「ワークショップは魔法ではありませんから、1回やっただけでは子どもたちは変化しません。私は豊岡市内すべての小・中学校で演劇教育を行っており、明らかに子どもたちの自己肯定感が上がったというデータも出てはいますが、最も変わるのは先生なんです。演劇教育を通して、先生が『子どもたちはこんなことをやれるんだ』とか『子どもの発想ってすばらしいな』と感じることが、いちばん大事なのです。毎年訪れている学校の先生が『去年、授業をしていただいた後、子どもたちに“あの時、あんなに頑張れたじゃない!”という声がけをして1年間乗り切れました』と言われて、とても嬉しかったですね」 1回の演劇教育で変化するわけではないとはいえ、手応えも感じているようだ。 「豊岡高校という進学校の先生によると、演劇教育の後、明らかに生徒の発言力が上がったそうです。日本の子は海外の子よりも『こんなことを言ったら笑われるかな』と失敗を恐れる傾向が強いので、ただ合意形成しましょう、発言しましょうと言われても、周りと同調してしまいます。合意形成はリテラシーであり技術ですから、何もせずに身につくわけではありません。そこでフィクションの力を借りるのです。シチュエーションを決め、自分ではない役柄になると、価値観や意見が違う人と対話することができます。こうした経験をしたからこそ、豊岡高校の生徒たちも物おじせずに発言できるようになったのでしょう」 対象が小学生の場合は、非認知スキルの向上を目的とするプログラムが多いというが、高校生の場合は課題を設定してプレゼンテーションとセットにするなど探究的な学びと結びつける学校が多いようだ。また、こうした“フィクションの力”を使った学びは、さまざまな学習にも取り入れられるという。 「どんな授業でも、点と点をつないで物語を作ることはできます。例えば、算数で3+5を学ぶ際、『猫が3匹いるところに犬が5匹きました。全部で何匹ですか?』という問題があったとするでしょう。まずは3+5を学んだら、そのまま『ほかの答えはある?』と問いかけてみる。『猫は驚いて逃げたから犬が5匹』とか『逃げた猫を犬が追いかけて行ったから0匹』といった答えが出てくるかもしれない。そんなふうにつなげていくのもいいでしょう。 文部科学省も個別最適な学びと言っていますが、計算などの反復学習はアプリでやって、学校では学校でしかできないことをやればいい。学校でしかできないことは、協働性、多様性を学ぶこと。もちろん、今までのような学習も必要ですから、オールオアナッシングではなく、ICTが得意なこと、学校(人)が得意なことをやっていくといいのではないでしょうか」