平田オリザ、学校で広がる「演劇教育」他者理解に有効な訳 主体的・対話的で深い学びの実現にも
“とことん話し合え”から“なんとかする”へ
これまで30年にわたって全国各地の学校でワークショップを行ってきた平田氏は、現在も年間40校ほど訪れている。中でも、兵庫県豊岡市では市内の小・中学校全校で演劇教育を行っており、自ら綿密な指導案を作成している。 「演劇人が学校に入っていくためには、演劇人が変わる必要があります。学校の授業で行いやすい形に変えたり、教員にわかりやすいボキャブラリーでしゃったり。そして、学習指導要領にひもづけて話すことも大切です」 こうして積み重ねた30年の間に、平田氏は学校現場の変化も感じている。とくに2020年実施の学習指導要領は、主体的・対話的で深い学びの実現を掲げており、演劇教育との親和性が高いという。 「私たちがずっと言ってきたことに、やっと時代が追いついてきたという感覚もあります。それは『バラバラの人間がバラバラなままでどうにかする力をつける必要がある』ということ。私がワークショップを始めた頃、学校現場では“とりあえずなんとかする”というのはネガティブに捉えられ、“とことん話し合え”が主流でした。 その話し合いの先に求められるのは“みんな同じ意見になること”。今もそれを求める学校もありますが、合意形成能力や折り合いをつける力も大事だと言われるようになってきています。人は同じ言葉を話しているつもりでも、その言葉に対するイメージは一人ひとり違うもの。ワークショップでは、人はそれぞれ自分のイメージで言葉を操作していることを、子どもたちに実感してもらうことから始めます」 少しずつではあるが、日本でも演劇教育が広がりつつある。ただ、それは国語や総合的な学習の時間、探究の時間を使って一部の学校で行われることがほとんどだ。海外では、多くの学校で演劇教育が取り入れられており、日本は後れをとっているという。 「OECD加盟国で演劇の科目がないのは日本を含む3カ国だけです。国語としてやる国もあれば、演劇という科目がある国もあります。韓国や台湾、シンガポールの高校でも行われており、アジアの先進国の中でも日本は後れをとっています。海外では1つの教室にいろいろな肌の子がいますから、多文化共生・多文化理解を目的とした演劇教育をやらざるをえないのです」 平田氏は、日本でも次期学習指導要領に演劇という言葉が何らかの形で入ることを期待しているという。グローバル化の進展で、多文化理解や多文化共生の必要性が高まっているのはもちろん、同一性の強い日本でも外国にルーツを持つ子どもが増えている。 「小学校で当たり前のように授業の中に演劇的なものがあるといいと思っています。とくに10年後の時点で先生が変わっていてくれないといけません。10年後には確実に、多文化理解・多文化共生のための教育が必要になるはず。だからこそ、今からやっておく必要があると考えています」 (文・吉田渓、編集部 細川めぐみ、注記のない写真:編集部撮影)
東洋経済education×ICT編集部