平田オリザ、学校で広がる「演劇教育」他者理解に有効な訳 主体的・対話的で深い学びの実現にも
自分が必要とされているという実感
では、具体的にどのような授業を行っているのだろうか。対象は小・中学生から高校生まで幅広く、学校向けでは教員研修や保護者向けの講演を組み合わせて行うことが多いという。もちろん、教材もオリジナルだ。 「学校や地域によって目的や課題は異なります。他者理解に重きを置きたい、その後の探究型授業に結びつけたいなどそれぞれですから、依頼を受けるとまず、最終的に何を目指しているかをお聞きして、学校の先生や教育委員会の担当者と一緒にカリキュラムを組んでいきます。私が主宰する劇団・青年団の団員や、NPO法人のメンバーが担当する部分もあります」 例えば埼玉県富士見市では、「子ども文化芸術大学」(教育委員会主催)と題し、市内全域から希望者を集めて10年ほど演劇教育の授業を実施しているが、年6回ある授業の1つを平田氏が担当している。実際、7月に行われたワークショップを訪れると、市内全域から小学4~6年生の子どもが20名ほど集まってきていた。 まずは全員で輪になり、簡単なゲームを通じて互いに親しんだあと、6人程度のグループに分かれ、朝の教室のワンシーンを題材とした台本をもとに配役を決める。セリフの語尾に加えて、細かな設定は変えてもいいというルールで、「先生がやりたい!」「転校生は長野ではなくて東京から来たことにしよう」……など、グループで話し合う。 この発表と振り返りを行った後は、朝の教室のワンシーンという設定はそのままに、自分たちで台本をつくっていく。あらためて配役を決め直し、「先生が教室に入ってくるまで転校生の噂話をしているのはどうかな」「大阪からの転校生ということにしてセリフを関西弁にするのはどうだろう」……などと細かな設定やシチュエーションまで、子どもたちは次々にアイデアを出しながら物語をつくっていくのだ。 3時間という時間もあっという間で、最後の発表は大いに盛り上がった。1回目の発表に比べて声も大きく細かな演技も入って、より劇らしくなっていたのはもちろんだが、何より子どもたちがいきいきとしていた。学校で行う場合も、続きの3コマ(時限)を使って、このような流れで行うことは多いという。 「演じることは他者理解に通じます。セリフを考えているうちに、『この人はなぜこんなところでこんなことを言うんだろう』とか『なぜこの人は黙っているんだろう』と自分の役や、ほかの人の役について自然と感じ取れるようになっていくからです。また、演劇では異なる意見があったときに折り合いをつける必要が出てきます。こうした合意形成を図ることも、他者理解に通じるでしょう。 そして、演劇教育はリーダーシップ教育でもあります。リーダーの資質とは人を引っ張っていくだけでなく、共同体で一番立場が弱い人の居場所を作ること。演劇教育を通じてその点に気づく子どももいます。従来型の社会科発表などでは、従来型のリーダーシップで推し進めることが可能ですが、演劇だとそれができません。1人が『やりたくない』と投げ出したら、お芝居が成り立ちませんから。1人でも抜けたら成り立たないということは『自分が必要とされている』という自己有用感にもつながります」