平田オリザ、学校で広がる「演劇教育」他者理解に有効な訳 主体的・対話的で深い学びの実現にも
価値観が違う人と一緒に「みこし」を担ぐには
2020年度から段階的に導入された学習指導要領では、「知識および技能」「学びに向かう力、人間性など」「思考力、判断力、表現力など」の3つを育むことを掲げるとともに、「主体的・対話的で深い学び」の必要性が説かれている。こうした資質を育む学びの場として注目されているのが演劇教育だ。劇作家で芸術文化観光専門職大学・学長の平田オリザ氏に話を聞いた。 【写真で見る】細かな設定やシチュエーションまで、子どもたちは次々にアイデアを出しながら自分たちで台本をつくっていく 戯曲「東京ノート」などで知られる劇作家・演出家の平田オリザ氏には、いくつもの顔がある。 兵庫県豊岡市にある芸術文化観光専門職大学の学長もその1つだが、平田氏と教育の関わりは長く、30年ほど前から学校現場で演劇教育を行っている。演劇教育とは、はたしてどのようなものなのだろうか。 「学校で演劇というと学芸会のイメージが強いと思うのですが、今は様変わりしています。現在はワークショップが主流で、台本はあっても子どもたちがセリフを考えたり、台本から作って演じるような形になっています。ワークショップ型は、表現力や情操教育が目的というより、合意形成を図る、子どもが自己有用感を感じるといったことが狙いになっています」 こうした効果は、演劇教育が生み出したものなのだろうか。それとも演劇を通じて得られるものなのだろうか。 「もともと演劇が、そういうものだと言えるでしょう。どんな共同体にも文化人類学などでいうイニシエーション(通過儀礼)やお祭り、農村歌舞伎、神楽といったものがあります。それらは共同体を維持するための知恵であり、そういうものを持っている集団だけが生き残ってきたと言えます」 人々はこうしたイニシエーションを通じてコミュニケーションを図り、共同体としての一体感を高めてきたというわけだ。しかし、昔と今とでは共同体で求められるコミュニケーション能力が変化していると平田氏は指摘する。 「例えば、祭りでみこしを担ぐなら、その地域の共同体に入る際のイニシエーションであり、そこで求められるコミュニケーション能力は“同一性の高い共同体になじむ”というものでした。しかし、今の時代に求められているのは、“価値観が違う人たちと一緒にみこしを担げる能力”です。 早くから演劇教育を導入した地域の一つに香川県の小豆島がありますが、その背景にあったのが町長と教育長の経験です。幼稚園から高校まで一緒だった同級生の2人は、大学進学を機に島を出て初めて“自分のことを知らない人たち”と出会い、苦労したそうです。知り合いしかいない環境でずっと生きていくという選択肢もありますが、約7割の子が島から出る今となっては、そうもいきません。『自分たちと同じ苦労はさせたくない』という2人の思いから、他者理解のコミュニケーション教育として演劇教育を導入したのです」