日鉄の買収計画阻止で上がる対米投資のハードル 「リスク意識」日米連携に禍根残す
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画は、安全保障を理由に日本企業による米企業の買収が認められなかった初のケースとなった。日本は世界最大の対米投資国で、同盟国として、中国による経済的威圧などへの対抗を念頭に半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)強化の投資でも連携している。バイデン政権の買収阻止の決定は、そうした日米の緊密な関係に傷をつけた形だ。 ■ソフトバンク、東芝は認められ 日鉄の買収計画と同様に、過去に対米外国投資委員会(CFIUS)による安保リスクの審査対象となった、ソフトバンクによる携帯電話大手スプリント・ネクステルの買収や、東芝による原子力発電プラント大手ウエスチングハウス(WH)の買収はいずれも認められている。 WHは、米軍の空母や潜水艦向けの原子炉も供給してきた企業だが、親密な同盟国の日本からの買収案を米国は受け入れた。米国が許容できない鉄鋼の安保リスクとは何か、WHのケースと異なる今回の判断への違和感はぬぐえない。 CFIUSの手続きは機密扱いのため、審査の経緯は不明だ。米紙の報道などによると、参加する国防総省、国務省、商務省など各省庁の意見が一致せず、一部に、買収を承認すれば米国内の鉄鋼生産の減少につながるとの懸念があったという。事実なら、141億ドル(約2兆2千億円)もの巨費を投じる買収先の事業を、あえて縮小する経営者がいったいどこにいると考えたのだろう。 日本から米国への2023年の直接投資残高は前年比2・9%増の7833億ドルと、5年連続で最大だ。背景には米経済の成長性や新興企業が勃興する活力の魅力、そして法令に沿った公正なビジネス環境と同盟国として価値観を共有する良好な日米関係への信頼がある。 米金融危機の際は、信用不安に陥った米金融大手モルガン・スタンレーに三菱UFJフィナンシャル・グループが90億ドルの巨額を出資した。現在は、重要物資の供給網強化に向け、日本政府が資金支援する先端半導体開発のラピダスに米IBMが協力している。日米は経済的に強い互恵関係にあり、バイデン政権の買収阻止の決定を受けても、日本側の対米投資の基本姿勢は変わらないとみられる。 ■米国の不利益につながる恐れ