開園100周年迎えた井の頭恩賜公園、絶滅危惧種の水草などが復活
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5月1日、東京都立井の頭恩賜公園(武蔵野市・三鷹市)が開園100周年を迎えた。園内にある井の頭池の環境改善を図ろうと、東京都と市民団体が、池の水を抜いて外来魚の除去などを行う「かいぼり」を行ってきたこともあり、絶滅危惧種の水草「イノカシラフラスコモ」が復活したり、モツゴなど在来の淡水魚などが増えたりしたという。環境が改善の成果を実際に見るため、5月5日に開かれた水上観察会に参加した。
小さなゴムボートのような1人乗りのフローターに乗って池の上へ。箱メガネを水中に入れて池の底をのぞくと、すぐにイノカシラフラスコモが見つかった。夢中になって箱メガネを覗いていると、視界の隅を背中の少し黒い小魚が横切る。在来魚のモツゴだった。 この日は晴天。平均水深1.6メートルという池の底には、水面の波紋にあわせて陽の光がゆれていた。かいぼりの前、池の水の透明度は20数センチほどしかなく、池の底はもとより見えず、コイがエサをねだりに水面に口を出しても体の下半分は見えないほどだったという。 観察会の終了間際、スタッフが岸の付近に設置された調査用の網にかかった生き物を捕らえ、参加者に見せるためにたらいに入れていた。フローターで近寄ってのぞきこむと、体が透き通ったスジエビが多数とびはねていたほか、ナマズの稚魚の姿もあった。 観察会に参加した横浜市中区の会社員・天野浩美さん(26)は、「イノカシラフラスコモが思ったより群生していた」と驚き、都内の高校で生物探求部に所属する高校2年生の吉田奈生(なお)さん(16)は「環境が悪化した池でかいぼりを行い、在来種や水草が戻ってくるのはすごく良いこと」と話していた。
かつて、江戸時代には水源として利用されていた井の頭池。日量1万トン以上の豊富な湧き水があり、ムサシトミヨなど関東平野固有の淡水魚や、イノカシラフラスコモを含め70種以上もの水草が生育していた。 しかし戦後、周辺の都市化にともない地下水利用が増えると湧き水が減少。池には地下水をくみ上げて枯渇を防いだが、以前の湧き水の水量より少なく、水の入れ替わりが遅くなったため水質が悪化した。1980年ごろからは、外部から流入したオオクチバスやブルーギルといった外来魚により、モツゴやスジエビといった在来種が捕食されて激減した。 これに対し、東京都では2006年に地元自治体らと組織した公園の100周年実行委員会で、100周年を機に井の頭池を再生させようと検討を開始。市民団体らとともに外来魚対策などに取り組むなかで、水質の改善と生態系の回復が見込めるかいぼりの実施を決めた。効果をより高めるため、1回だけでなく2年ごとに3回行う方針を定め、2014年の1月から3月に1回目、2015年11月から2016年3月に2回目のかいぼりを行った。 この池で約60年ぶりにイノカシラフラスコモの生育が確認されたのは、2回目のかいぼり後。水の透明度が上がり池の底に太陽光が当たったおかげで、土の中で休眠していた胞子が発芽したのではないかと見られている。水草では、ほかにもツツイトモなどの在来種が確認された。 外来魚も大幅に減少してモツゴ、エビ類などの在来種が増加すると、それらをエサとする野鳥のカイツブリの繁殖にも好影響が及んだ。 自然環境教育や生物多様性普及・啓発活動を行う市民団体で、都や他団体とともに池の再生に取り組む井の頭かんさつ会の田中利秋代表(64)によると、かいぼり前の2013年にはカイツブリのひなを1羽も観察できなかったが、かいぼり後の2014年には3組のつがいから計12羽のひなが、2016年には4組のつがいから計22羽のひなが生まれたのが確認できたという。池で長年カイツブリを観察する田中さんは、「帰ってくるとは思っていたが、やはりうれしかったですよ」と喜ぶ。 3回目のかいぼりは今冬の予定だが、具体的な実施時期はまだ決まっていない。今回のかいぼりでは、ブルーギルの根絶を目指す。過去のかいぼりでオオクチバスは根絶できたが、それよりも小さな体のブルーギルは完全に捕りきれず、再び増えつつあると予想されるためだ。