NTT法廃止見送りへ、総務省報告書は慎重内容 自民大敗で潮目変化 名より実をとる決着
NTTの事業を規制するNTT法の廃止が事実上見送られることになった。NTT法が廃止されれば、NTTにとっては規制が緩くなり海外巨大IT企業などとの競争に追い風となる一方で、国内で競合している携帯電話大手各社は「NTTを太らせることになる」と猛反発してきた。ただ、廃止の議論を主導した自民党が衆院選で大敗し「旗振り役」を失ったことで、NTTも、法律の廃止という「名」より、費用負担の軽減という「実」を取る道を選び、結果的に廃止に関する議論は〝棚上げ〟状態となった。 ■法律の廃止で携帯料金の高止まりも 「時代の変化に即して簡素化するものや強化するものがある。あえて、廃止する根拠は見当たらない」 KDDI(au)の高橋誠社長は1日の決算会見で、NTT法を維持する意義をこう強調した。 総務省の有識者会議が10月にまとめた報告書では、NTT東日本、西日本の線路敷設基盤の譲渡などは認可制にするべきとし、NTT東西、ドコモなど、グループの合併審査の強化や外資規制の維持も適当とされるなど、NTT法の廃止に慎重な内容となった。NTTの市場支配力が強まれば、公正な競争が阻害され、携帯料金の高止まりにつながると主張する携帯大手各社の意見を反映したものだった。 NTT法は、NTTに対し、国民生活を支えるユニバーサルサービスとして固定電話を全国で提供することなどを定めている。研究成果の開示義務なども課されており、成長の足かせになっているとの指摘もあった。 NTT法を巡る議論は防衛費の捻出のため、政府が保有するNTT株の売却に関する議論が自民内で始まったことに端を発する。株式売却によって政府の関与が薄まるのを機に、米中の巨大IT企業への対抗策として、NTTの規制緩和も併せて話し合われた。 ■急進的な改革案は衆院選後に止まる 昨年12月、自民がまとめた提言は、令和6年の通常国会で部分的に改正し、7年の通常国会を目途に廃止するという急進的なものだった。提言を受け、今年4月には研究成果の開示義務が撤廃され、外国人役員の登用なども可能になる改正NTT法が成立した。 それが衆院選での自民大敗で潮目が変わった。NTT法の見直しを主導したのは、甘利明氏や萩生田光一氏など経済産業相経験者ら。甘利氏は落選、萩生田氏は当選はしたものの、党派閥の政治資金パーティー不記載事件で無所属での出馬を強いられた。NTT法改革の牽引役だった経産省に近い議員の支援が削がれたことで、NTT法廃止に向けた旗振り役が不在状態となり、一方で総務省に近い議員や携帯大手各社の巻き返しが始まり、改革に向けた議論は実質的に止まった。
ただ、10月の総務省の報告書では、携帯電話網を利用した固定電話も有線と同様にユニバーサルサービスに位置付けられた。NTTだけに課された固定電話の提供義務はコスト負担となっており、NTTの島田明社長は7日の決算会見で「(ユニバーサルサービスの維持は)試算したところ550億円の赤字」と明かした。一方、報告書に対し「限界を迎える電話設備を新しいものに変えていく目途が立ったことは大きな成果」と述べ、法の廃止論は事実上諦める反面、固定電話事業を携帯電話網を使った形に変えていくという実を取る決着を選んだ。(高木克聡)