【ラグリパWest】リーダーの器。山口泰輝 [レッドハリケーンズ大阪/副将/FB]
山口泰輝(たいき)はリーダーの器を持っている。細い眼のまなじりは上がり、口は一文字。意志の強さがにじみ出る。 レッドハリケーンズ大阪では副将を任された。山口がRH大阪と略されるこの深紅に新卒として加わったのは今年4月である。 所属半年ほどの新人の抜擢は間違っていなかった。GMの高野一成は思う。 「試合が終わってから、甘い、と円陣の中で指摘しました。しっかりしていました」 高野は実質的な最高責任者である。 切り取ったのはGR東葛との一戦だった。シーズン前の3戦目は11月23日にあり、19-54と大敗した。山口はFBで先発し、ゲームキャプテンも任される。その前の試合、S愛知戦から兼務の形になった。 GR東葛は特別である。12月22日のリーグワン開幕で戦う。会場はホームのヤンマースタジアム。そして、ディビジョン1(一部)昇格に向けた最大のライバルのひとつだ。 「その相手にあの負け方はない」 51歳の胸中を23歳が円陣で代弁する。 「チームにはゆるいこところがありました。いけるんじゃね、って感じです。でも、僕も含めて、しっかり準備しないと勝てない、ということがわかったと思います」 ゆるさは昨年度、上位だった相手との2試合を1勝1分とした点にある。花園Lは40-40、S愛知には33-12だった。 山口は「勝つチーム」を知る。昨年、帝京の副将FBとして大学選手権で優勝する。チームとしては9連覇に次ぐ3連覇を果たした。60回大会の決勝は明治に34-15。山口は2年から選手権で無敗ということになる。 「帝京はピリピリして、ミスをしちゃいけない雰囲気がありました。RH大阪はみんな仲がいい。それ自体は悪いことではないのですが、なれ合いになってはいけません。ひとつのミスが失点や負けにつながりますから」 きつい物言いができる努力はしている。今秋、山口はセブンズ(7人制)の日本代表に初めて選ばれた。3回の合宿のあと、アジアシリーズの韓国と中国遠征に参加した。 「春先は5キロほど重かったですが、セブンズに行って、勝手に落ちました」 今の体重は90キロ。身長は177センチ。代表を目指した日々はまた、体も整える。 山口は得意なプレーを言葉にする。 「キックとランですね」 利き足の右からは60メートル級の蹴り出しができ、「ギュン」と衝撃が広がるような速さでギャップを突く。 その技の淵源は2つのフットボールにある。ラグビーは長崎ラグビースクールで保育園の6歳、サッカーは小1から始めた。中学卒業までラグビー優先の兼部を続けた。3つ上の兄・莉輝(りき)の影響である。兄は高大の先輩にもなった。今は中国RRのCTBとしてプレーを続けている。 長崎北陽台では1年からFBでレギュラーだった。高3の全国大会は99回(2019年度)。2回戦で優勝する桐蔭学園に7-38で敗れるも高校日本代表に選ばれた。 帝京は兄がいたのとは別の理由もあった。 「小学校のころ9連覇を見て、格好いいなあ、と思いました」 チームは多士済々。FBは奥村翔(静岡BR)、二村莞司(S東京ベイ)、谷中樹平(トヨタV)らがおり、超え難い先輩たちだった。 4年春、同期の話し合いで副将に選ばれる。帝京は最上級生が幹部を決める。 「そのためのミーティングは5、6回しました。長い時は1回1時間半ほどでした」 山口のリーダーの資質を監督の相馬朋和はその1年前に知る。セブンズの日本代表につながる合宿を辞退して、チームに残った。 相馬は言う。 「チームにかける思いを見せてもらったような気がしました。彼に教えてもらいました」 山口は残った理由を説明する。 「上級生になり、引っ張る側になりました」 チーム第一の考えはこの頃もあった。 その辞退をした3年春、RH大阪の採用を担当していた渡辺義己が誘ってくれた。 「声をかけてもらえたのが一番早かったし、試合に出れば、一番成長できます」 RH大阪はアーリーエントリーをかける。 4月19日からの最後の2試合に山口はFBとして先発する。釜石SWには21-18、九州KVには22-12と連勝して、リーグ戦4位を確保する一助になる。 ラグビーだけではない。仕事もこなす。山口は社員選手だ。NTTドコモからにドコモCS関西に出向し、ネットワーク建設推進部にいる。消耗品のリサイクルや非常用の備蓄品の管理などに関わった。NTTドコモはRH大阪の親会社的な存在になる。 住み暮らすのは大阪市内の寮だ。 「都会の真ん中、楽しいです」 帝京のグラウンドは東京の日野にある。 「東京と言っても、長崎と変わりません。近くの多摩センターは開けていますが…」 3つ目の定住地、大阪は気に入っている。 「チーム飲みなんかでお店に行っても、気さくな人が多い。元気になります」 RH大阪が結ぶ連携協定にも前のめりになれる。ホームの大阪市24区のうち22と結ぶ協定はスポーツの普及などを軸に豊かな地域社会の形成と発展に貢献する狙いがある。 山口にとってはこれから実質的に社会人初のシーズンが始まる。目標は明確だ。 「ケガをしないことです。成長を一番止めますから。チームは入替戦出場です」 最後尾から常に声や姿勢、そしてプレーで鼓舞してゆきたい。前年度4位から入替戦出場の2位に浮上できれば、迎え入れてくれたRH大阪へ大きく報いることにもなる。 (文:鎮 勝也)