日本の管理職は「多忙すぎる雑用係」 昇進するほど市場価値が低下するジレンマ
日本における管理職の市場価値
日本では正社員として入社さえしてしまえば、自らの意思とは関係なく、ほとんどの人が「未来の幹部層候補」として扱われます。つまり、入社と同時に管理職昇進を待つ長いウェイティングリストに並び、手を挙げなくても管理職やその登用試験を打診されていきます。そして、家庭の事情で時短勤務を選ぶ際などに昇進を断ることが、昇進しないという意思の表明だと考えられます。これをオプトアウト方式と著者は呼んでいます。 一方で、海外先進諸国の昇進は原則的にオプトイン方式だと言われます。入社の段階でハイレベルな教育を受けていることが管理職候補の条件となっていて、近年その傾向が強まっているといいます。欧米の大手企業の役員以上の幹部は、ほとんどが修士号か博士号を持っている人で占められています。 なお、ジョブ・ローテーションによって様々なポストを経験するため、日本の管理職は広報・経理・営業などの専門性の高さを示すものではなく、社会階層の高さを示すものとなっています。この専門性の高さを示さない、多忙すぎる雑用係に堕ちた日本の管理職は、企業を横断した転職市場マーケットで明確な強みが打ち出せずにいます。そして、「管理職になると、市場価値が低下する」という逆説的な事態となります。 それだけの代償を払った管理職は、大手企業を中心に敷かれている「役職定年」によって不幸な結末を迎えます。年齢という実力とは関係のない基準でおろされる結果、「あまりに理不尽で、やる気がまったく出なくなった」「会社っていったい何だったのか」というように、ショックの大きい状況に追い込まれるのです。
罰ゲーム化の修正法① フォロワーシップ・アプローチ
罰ゲーム化に対して、本書で挙げられている4つの対処法のうち、2つを取り上げます。まず、フォロワーシップ・アプローチです。これは管理職の部下である「メンバー層」へのトレーニングを増やす、というアプローチを指しています。つまり、階層型研修でどうしても手薄となりがちな、非管理職である中堅以上のメンバー層への訓練を拡充することを意図しています。 近年は人材の再活性化や再配置を目的としてなされるDX研修がリスキリングの中核として扱われています。しかし、デジタル技術の習得に偏りすぎてもいます。この文脈で主に注力すべきなのは、ITスキルのようなオペレーショナルなスキルではなく、対人関係やコミュニケーション、部下育成といった「ピープル・マネジメント」の領域についてです。 一般的に管理職のみを対象にした研修では、仕事のキャッチボールの投げ手だけの訓練になっていて、その受け手であるフォロワーシップが育っていません。そして、管理職であるリーダーに万能性を求め、リーダーは疲弊していきます。それを避けるためにも、主にコミュニケーション課題を克服する研修を広く行うことで、組織を再度活性化していくのです。