坪井翔が魅せた“魂の5周”。鮮やかな逆転で4年ぶり&移籍後初勝利、“夫婦優勝”の快挙も達成【スーパーフォーミュラ第4戦富士決勝レポート】
7月21日、『第1回瑶子女王杯全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦富士大会』の決勝レースが静岡県の富士スピードウェイで行われ、坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)が今季初優勝を飾った。2位は大湯都史樹(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)。3位は7番グリッドスタートから野尻智紀(TEAM MUGEN)が手にしている。 【写真】妻の斎藤愛未がKYOJO CUPで初優勝した姿を見て涙を流す、夫の坪井翔 予選日からの好天、そして酷暑が続く富士。この日朝のフリープラクティスでは、坪井がトップタイムを記録、4番グリッドから挑む決勝に向けて、ロングランの仕上がりも上々な様子が伺えた。 決勝は41周または75分。スタートセレモニーの後、当初予定より3分遅れとなる15時03分のフォーメーションラップ開始がアナウンスされたが、このスタート直前のタイミングで5番グリッドの太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のマシンがガレージへと戻されるという波乱から、第4戦は始まることとなった。 気温32度/路面温度45度というコンディションのなか、ポールポジションの福住仁嶺(Kids com Team KCMG)を先頭に、太田を除く20台のマシンがフォーメーションラップへと向かった。 ■福住、ピットで無念のタイムロス スタートでは、ポールの福住が順当に先頭でTGR(1)コーナーへと入るなか、2番手の岩佐歩夢(TEAM MUGEN)が大きく遅れ、代わって大湯が2番手に浮上、コカ・コーラコーナーでは福住のインを伺うそぶりを見せる。 その背後では牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が3番手、野尻が4番手へと、それぞれ3ポジションアップに成功。5番手に坪井、そして6番手には11番グリッドから大きく順位を上げた笹原右京(VANTELIN TEAM TOM’S)がつける序盤戦となった。一方で岩佐は13番手にまでポジションを落としてしまう。 スタート直後、コカ・コーラコーナー立ち上がりで突然パワーを失った阪口晴南(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)は、オープニングラップを走り終えることができず、マシンをコース脇に止めてしまった。 序盤からOTS(オーバーテイクシステム)を使いながらの接近戦が続くなか、4周目に入るTGRコーナーでは、坪井が野尻から4番手を奪い返す。さらに坪井は8周目のTGRコーナー進入でも牧野をパスし、表彰台圏内へと進出していった。 8周目までに首位の福住は2秒のマージンを築き、独走体勢に持ち込んでいく。 10周が終了してピットオープンとなると、まずは野尻、国本雄資(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、大津弘樹(TGM Grand Prix)、大嶋和也(docomo business ROOKIE)の4台がピットへと向かい、義務付けられたタイヤ交換を行った。 11周目の終わりには、牧野、笹原、小林可夢偉(Kids com Team KCMG)、小高一斗(KONDO RACING)、木村偉織(San-Ei Gen with B-Max)がピットへ。コース上では、2番手大湯に対して坪井が接近し、コカ・コーラコーナーではサイド・バイ・サイドのバトルを繰り広げるが、大湯も譲らない。直後、大湯はピットロードへと飛び込み、コース上では坪井の前が開ける形となった。 ピットアウトした大湯を野尻がパスし、アンダーカットを成功させた形となる。アウトラップの大湯は続いて牧野にも抜かれるが、ダンロップコーナーではこれを抜き返すという、熱い走りを見せた。 ここで14周を終えた首位の福住がピットに入る。しかし左フロントタイヤの交換作業に時間を要し、大きく後退。福住はチームメイトの可夢偉の前でコースへと復帰することとなった。 これでステイアウト組は坪井を先頭に山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)、佐藤蓮(PONOS NAKAJIMA RACING)、平良響(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、岩佐、三宅淳詞(ThreeBond Racing)、Juju(TGM Grand Prix)というオーダー。ピットを終えたグループの先頭は野尻、その後方に大湯、牧野、笹原、国本、福住と続く順位となり、中盤戦へと突入していった。 ■ピットアウト後に見せたごぼう抜き 17周目、TGRコーナーへの進入で大湯が野尻を攻略し、“裏1位”を奪う。21周目には、国本、福住が笹原を相次いでオーバーテイクし、実質の順位を上げていった。福住はこのあと、国本を追い抜くことにも成功する。 22周を終え、首位坪井と“裏1位”大湯のギャップは35秒弱。その後もじりじりと差は詰まっていき、坪井がどの段階でピットに向かうかが注目された。 24周目、5台ほど残っていたステイアウト組のピット作業が、暫定2番手の山本を皮切りに始まる。これで2番手に上がった佐藤には、スーパーフォーミュラ2戦目の平良が迫っていくが、平良は26周を終えたところでルーティンピットへ。翌周には佐藤もピットへと向かった。 残るステイアウト組は坪井と岩佐の2台。28周を終え、坪井がいよいよピットへ向かい、大湯、野尻、牧野に続く実質4番手でコースへと復帰。アウトラップ、背後には福住が迫るが、坪井はポジションを守ることに成功した。 そしてタイヤが温まった坪井は、翌周から鬼神の走りを見せる。 まずは牧野へと迫ると、30周目の13コーナー進入で攻略。坪井はフレッシュタイヤの勢いそのままに、31周目に入るホームストレートでは野尻をパスし、実質の2番手まで進出を果たした。さらに約3.5秒先の大湯を自己ベストタイムをマークしながら猛然と追っていくと、33周目の第3セクターでは早くもテール・トゥ・ノーズに持ち込み、34周目のTGRコーナーからコカ・コーラコーナにかけて前に出て、実質の首位を奪った。 後方では11番手の笹原に平良が襲い掛かり、32周目のTGRコーナーで前に出る。さらにその前では山本と佐藤というPONOS NAKAJIMA RACINGの2台による9番手争いもヒートアップ。36周目のTGRコーナー進入で佐藤がポジションを奪った。続いて山本には平良が襲い掛かり、この時点での10番手とポイント圏内に進出していく。 39周目、牧野にひたひたと接近していた福住が、TGRコーナーでオーバーテイクに成功し、実質4番手へとポジションを回復。そしてこの周、暫定首位を走っていた岩佐がついにピットへと向かうと、坪井が正真正銘のトップに立った。この時点で坪井は6.5秒の差を大湯に対して築いていたが、2周後のフィニッシュラインでは7.1秒にまで拡大。ピットを後半まで引っ張る作戦のメリットである、交換作業直後のフレッシュタイヤのメリットも存分に活かして、見事な逆転勝利を遂げた。 2位は大湯。最終ラップ、野尻には福住が迫ったがオーバーテイクには至らず、表彰台の最後の一角は野尻が死守。5位に牧野、6位国本、7位佐藤、8位可夢偉、9位平良、10位山本までがポイント獲得となった。スタートで出遅れてピットインを引っ張る戦略を採った岩佐は、11位でチェッカーを受けている。 今季、チャンピオンチームに移籍した坪井は、2020年最終戦富士以来となる自身通算3勝目。併催されたKYOJO CUPでは妻の斎藤愛未(Team M 岡部自動車 D.D.R VITA)もこの週末に初優勝含む2連勝を飾っており、夫婦で夏の富士を完全制圧する形となった。 場内イベント『SUPER FORMULA夏祭り2024 in FUJI MOTORSPORTS FOREST』と併せて開催された富士大会は、2日間で延べ49,200人の観客を集めて閉幕。フィニッシュ後のホームストレート上では、『After Race Grid Party(アフターレース・グリッドパーティー)』も行われた。 2024年スーパーフォーミュラの次戦第5戦は、8月24~25日に栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催される。 [オートスポーツweb 2024年07月21日]