モンスターペアレントは江戸時代に学べ!「親の過干渉禁止」「無礼な子は学ぶ資格ナシ」寺子屋の教えが現代人に必要なワケ
一方、前述の通り天保期には推定6~12万の寺子屋があったため、子どもを集めるのは競争だった。特に江戸は熾烈で、1844(天保15)年に刊行された「私塾・寺子屋番付」なるランキングが現存する(国立歴史民俗博物館所蔵)。 「優劣は論じない。ただ、父母の一助とする」との注釈付きで、つまり順位の根拠は不明だが、おそらく生徒数の多い少ないなどで人気を割り出したのではなかろうか。 ● 現代人が寺子屋から 学ぶべきこととは? 菊池貫一郎(4代・歌川広重)作画の『江戸府内絵本風俗往来』は寺子屋について、「修身の端緒を修めさせる」と記している。「道徳の基礎を学ばせる」という意味である。 寺子屋は、まず礼儀を教える場だった。師匠たちは論語にある「余力学文」―道徳を重んじ余力で学問を学ぶ―をモットーとし、「礼儀なき子は学ぶ資格なし」が鉄則だった。 着座にはじまり、挨拶・礼・整理整頓・掃除などは、事のほか厳しかったという。親も寺子屋にそれらを求めた。 一方、まだ10代前後の子どもの集団ゆえ、喧嘩は日常茶飯事だった。だが、子ども同士のトラブルは師匠が仲裁し、叱るもので、親は干渉しないのがルールだった。寺子屋は親から離れ、集団生活を学ぶ場でもあったのだ。 こうして見ると、昭和までの学校は寺子屋の信条やルールを踏襲していたことに気づく。だが昨今は、学校の教育方針や子ども同士のトラブルに干渉する「モンスターペアレント」が増え、対応に苦慮している教師も存在する。喧嘩の範疇を超えた、陰湿ないじめの問題も根強く残る。 だからこそ、現代人が寺子屋から学べることは多いはずだ。親と学校が「適切な距離感を保つ」ことや、「礼儀なき子は学ぶ資格なし」の精神を、現代人は今一度思い出すべきだろう。 ●参考文献 『江戸の教育力』高橋敏/ちくま新書 『江戸の教育力』大石学/東京学芸大学出版会 『新しい江戸時代が見えてくる』大石学/吉川弘文館 『我が国庶民教育と矢吹学舎』妹尾尋常高等小学校/国立国会図書館
小林 明