球界初の京大出身投手、ロッテ・田中の現在地
メディアに追いかけられていたとき、田中は、京大クンと表現されることを嫌った。 ――あのとき、京大クンという言われること嫌がっていたよな? 「はい。でも、もう誰も、今の僕にそうは言わないでしょ(笑)」 ――消息不明の京大卒のピッチャーだ(笑)。 「確実に壁には、当たっています。ここを乗り越えるか、越えられないかが、プロとしての正念場です。ここを超えることができれば、それこそ京大卒なんてことは何も関係なくなります。たぶん、プロとしてやっていけるんじゃないかという自信が持てるような気がするんです」 ――今年だめならの危機感は? 「ないことはないです。でも、周囲からは、とにかく焦るなと言われています。焦っても何も生まれせん。とい言いつつも急いではいますが。ときどき、やばいなってなるときがあります。葛藤がありますね。奨吾(同期のドラフト1位の中村)は、完全にレギュラーですからね。焦りはあるんですけどね」 暗闇をさまよい、自分探しの長い旅に出ていた田中だが、ゴールの地図らしきものは頭に描いている。その道筋は、年下だがプロでは先輩になる二木康太(20)が見せてくれた。鹿児島情報から2013年のドラフト6位で入団した二木は、プロ3年目となる今季開幕からローテーションに入っている。 「理想は、二木の昇り方ですね。二木も去年のこの時期には投げていなかった。それが半年ちょっとでどんどん成長してよくなっていくのが傍で見ていてわかったんです。一気にアピールして、いつでも上にいける状態となり、後半はローテに入り、次のシーズンで開幕からローテを取りました。 僕も一度はできていたものがあり、上まで行った。そこで打たれたことは、これ以上ない、強烈なプロの刺激として、今なお残っていますが、逆に『あそこまではできたんや』という自信にもなっています。 今の壁を乗り越えることができれば、そのとき以上の自信を持って次はいけるんじゃないか。身近なお手本の二木を見ていて、そんな感じで考えることができるんです。後半でもいいので、なんとか今年中には1軍で投げたいんです」 ――その第一歩はいつになる? 「GOサインは、ある程度は自分次第なんです。小谷さん(2軍投手コーチ)には、『もう教えることは教えた。後はおまえ次第だ』と言われています。自分で、『いけそうです』といつ言うか。自分で納得してやるしかない。やっとプロらしくなったとも言えます。5月のゴールデンウイークくらいに2軍戦で投げることができればと思うのですが」 録音レコーダーを切ってから、田中は、グラウンドのすぐ横にある寮生活の話をおもしろおかしく教えてくれた。後輩が増えて、晩飯を奢らねばならない機会が増えたことや、最近は、風呂に入って、夕飯を終えると、メールをチェックして、午後9時には、就寝の床につき、朝早く起きてウエイトトレーニングをしているというような規則正しい生活の話だ。 陽が落ち、薄暗くなった浦和球場のネット裏に冷気が入り込む。 インタビューの終わりにひとつだけ聞いた。 ――楽しくなくなった野球。今は? 「今はね。やっと楽しくなってきています。投げる楽しさが多少は出てきたんです」 頑張れ、京大クン。いや、失礼、悩める2年目のドラフト2位投手。 私は手元のメモに、汚い字で、そんな走り書きをした。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)