球界初の京大出身投手、ロッテ・田中の現在地
昨年の12月、京都に帰って京大野球部の忘年会に参加した。大学院に進んだ連中がほとんどだが、就職したメンバーも何人かいる。ほとんどが本格的な勝負の野球はしていない。 「みんなに『大変そうやな』とは言われたけれど、うらやましがれるんです。『おまえ、今も野球ができるって、すごいことなんやで』と。みんなはできると思ってくれているし、そういう話を聞くとプロに来たことへの後悔は全然ないんです」 選ばれし人として、今、好きな野球で飯が食えていることの幸福感。「プロ野球投手・田中」のルーツに触れ、人からエリートと言われ続けてきた人生で初めて味わう挫折に立ち向かう勇気が沸いた気がした。 田中は秋季キャンプから、一度フォームをバラバラに分解して、ボールを持たないシャドーピッチングから、薄い紙を一枚、一枚、積み上げるような気の遠くなるような“再生作業”をスタートさせている。 自主トレは、鴨川の秋季キャンプで一緒だった3年連続40試合登板をクリアした左腕のセットアッパー、松永昂大(27)に直訴して、兵庫県の関西国際大で行うトレーニングの仲間に入れてもらい、「こんなに?と思うほど走り込んだ」。体幹を軸にしたトレーニングにも取り組み、昨年に比べて体重は、筋量だけで4キロ増量。少し逞しくもなった。 2軍スタートとなった石垣島キャンプは、タオルを振ってのシャドーピッチング、キャッチボール、立ち投げに終始した。 「2月1日からブルペンに入ることが理想でしたが、たぶん、これは間に合わせられない、間に合わないと思っていたんです。結果、立ち投げから始まったけれど、思ったよりも早くキャッチャーを座らせる段階に進めました。周りから見れば、『何してんの?』という感じだったと思りますが、それくらいやばかったんです」 今、取り組んでいる“再生フォーム”は、田中曰く、「簡単に言えば、悪いものを省くフォームです。多少の修正ならいいのですが、これまでは、こう投げたい、こうしたいという、一球、一球、動作、意識ばかりが強くなってしまっていました」。つまり、無意識で納得のいくボールを投げることができる“ぶれない自分のカタチ”を構築したいのだ。 「もうひとつはリズム感です。技術がどうこう以上に、リズム感。元々、自分にあったものを活かしつつ、足りない部分をトレーニングで補って、頭でフォームを意識しなくてもいいようにしたいのです。ここんとこ、それがはまりだしています」 求めているスタイルは? と聞くと、田中は、こう言う。 「どちらかといえば、コントロールがアバウトでも、球威、キレで押したい。ストライクゾーンを4等分、2等分、3等分にするような、もっと細かいコントロールも当然必要になりますが、当面は、制球は大雑把でも球威とキレ。元々は、そういうピッチャーでしたからね。なのにプロでは制球と球質を求めすぎたんです」