三宅香帆が薦める…本を贈り合う「サン・ジョルディの日」に選びたい珠玉の一冊
大人になってもう一度読み返したい
この本を紙で読んでほしい、そしてプレゼントにおすすめの理由のひとつは、愛蔵版の装丁が本当に美しいこと! 文庫版で読んでももちろんいいのですが、愛蔵版は紙の箱のなかに入っており、ぜひ本棚に並べてほしいな、と思います。プレゼントにもぴったりです。 そしてもうひとつの紙で読んでほしい、プレゼントにおすすめの理由は……ぜひ人生のいろんな段階で読み返してほしいから。どんな年齢の相手であっても、読むのに遅いなんてことはないからです。 なぜなら私自身が、『はてしない物語』を大人になって読み返して「こんな本だったのか!」と心底感動したんですよね。たとえばミヒャエル・エンデといえば『モモ』を思い出す方もいるでしょう。『モモ』で綴られた「灰色の男たち」といった比喩表現は、子ども心にもぼんやり面白かったのですが、やっぱり大人になってからのほうが刺さる。「時間を奪われる」という感覚もよく分かってくる。それと同じで、『はてしない物語』もまた、子ども向けの児童文学に見えて、やはり現代の大人に刺さる物語でもあると思うのです。 『はてしない物語』は、現実で冴えない男の子が、本のなかではかっこいい英雄になれる、という物語。ある意味、いまふうに言うと「異世界転生」ジャンルの先駆けとも言えるような構成になっています。しかし大人になってから読むと、バスチアンが「どうすれば現実の世界に戻ることができるのか?」という点こそがこの物語の主題であることがわかるのです。 少しだけねたばらしをすると、バスチアンに必要なのは、「望み」である、ということが語られます。大人になって読むと、自分で自分の欲望を理解すること、やりたいことや自分の欲しいものをまっすぐ見つめることの難しさがしみじみ刺さるのです。 くわしくはぜひ『はてしない物語』を読んでほしいのですが、バスチアンの物語は、子どもでも大人でも、老若男女問わずきっと誰もに響くところがあるのではないか、と思っています。 さて、そんなわけで今年の「本の日」こと4月23日。私は『はてしない物語』をプレゼントしようかな、と思っています。あなたはどんな本を、誰に贈りたいですか? ぜひ、書店へ行って、考えてみてくださいね。 【もっと読む】『書店員芸人・カモシダせぶんが教える「紙で読んでよかった本」…4月23日「サン・ジョルディの日」に贈りたい4冊』
三宅 香帆(書評家)