三宅香帆が薦める…本を贈り合う「サン・ジョルディの日」に選びたい珠玉の一冊
大切な人に本とバラを贈る日
4月23日が「サン・ジョルディの日」と呼ばれていることを、知っていますか? 「サン・ジョルディの日」とは、もともとはスペインのカタルーニャ自治州の伝統的な祝日。文豪として名高いセルヴァンテスとシェークスピアの命日でもある4月23日は、いつしか「本とバラを贈り合う日」という習慣がついたそうです。 【写真】『古事記』は、「読む」というより「体験」すべき作品だと気づいた話 実は、日本でも「サン・ジョルディの日」に本をプレゼントする習慣が、じわじわと広がっていることをご存じでしょうか? 電子書籍が普及する昨今ではありますが、紙の本の良さ……それは人と貸し借りしたり、プレゼントしあったりできることにある。そう思う人はきっと私だけではないはずです。たとえば学生時代に友人とおすすめの本やマンガを貸し借りしあった思い出や、親の本棚からそっと本を抜き取った思い出がある方もいるのではないでしょうか? そういう意味で、本をプレゼントすることは――きっと誰かに思い出を渡すことでもあるのだと思います。 紙の本は、すこし汚れたり、折れたり、古くなっていったりするかもしれない。しかしだからこそ、本には思い出がしみついていく。人からプレゼントされた本なら尚更、でしょう。
おすすめの一冊
ちなみに私がサン・ジョルディの日におすすめしたい本は、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』(岩波書店)です! とくに美しい愛蔵版は、ぜひ紙で一家に一冊置かれてほしいなあ、と思うほどの素敵な書籍。ドイツで1979年、日本で1982年に刊行された本ですが、40年程経ってもまったく古びれない、おそらく今後も古びれることのない小説です。 主人公は、10歳くらいの太った少年、バスチアン。いじめられっ子の彼は、ある古書店で『はてしない物語』と書かれた本を見つけ、どうしようもなくその本を読みたくなってしまいます。そしてバスチアンはとうとうその本を盗んでしまうのです。ひっそりと誰にも見つからない場所で『はてしない物語』を読み始めた彼は、いつしかその本のなかに入り込んでしまうのでした。 『はてしない物語』の本の世界では、ファンタージエンの国が滅亡の危機に瀕していました。なぜ滅亡しかかっているかというと、「虚無」の広がりゆえ。「虚無」とは、子どもたちから夢や希望を奪ってしまうものでした。そこに現れたのが、少年アトレーユ。彼はバスチアンに助けを求め、ふたりはファンタージエンの国を救う旅に出るのです。 バスチアンは、不思議なお守りのおかげで、本の世界ではかっこいい勇者の姿になっていました。そうしてファンタージエンの国を救った英雄バスチアンは、現実に帰らずにファンタージエンの国の支配者になろうとしてしまいます。 はたしてバスチアンは、どんな道を選ぶのか? ファンタージエンの国はどうなってしまうのか? ……ぜひ物語を読んでみてほしいです。