「タイガースでもう1回やり返したい」残留を決意した坂本誠志郎の“てっぺん”への渇望
◆ FA権利を行使せず阪神と4年契約を締結 タテジマへの愛着、仲間と目指す頂点への渇望が決断の大きな理由だった。 タイガースの坂本誠志郎が、今季取得した国内フリーエージェント権を行使せず残留を表明したのは申請締め切り日となる11月13日。チームがクライマックスシリーズ・ファーストステージで敗退した10月13日から熟考を重ねてきたことがうかがえた 「正直、自分が野球界でどういう評価をされてて、どういう位置にいるのか知りたいという思いはないことはなかった」 宣言すれば数球団による争奪戦も予想されたが、権利を行使せず球団と4年契約を結んだ。 「僕は兵庫県出身で、タイガースという球団にドラフトの時に入ってその縁とか恩がある。23年シーズン優勝して、日本一になって、今年悔しい思いをして。個人的にも悔しい思いをたくさんした。タイガースでもう1回やり返したい。もう1回みんなでそこ(優勝)を目指していきたいというのも大きな要因ではあります」 23年は梅野隆太郎の負傷離脱もあって8月中旬からは先発マスクを被り続けて投手陣をけん引。18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一の瞬間も守護神・岩崎優とマウンド上で抱き合って歓喜を分かち合った。一方で、連覇を目指した今季は64試合の出場にとどまり、8月には故障以外の理由では20年7月以来となる二軍降格も経験。チームもジィアンツとの首位争いで競り負けて2位に終わり、悔しさばかりが残る1年になった。 「自分にとって大切な権利なのでしっかり考えたい」。そう口にしてプロ生活で初めてとなる“分岐点”に立った。他球団で新たな挑戦に向かうのか、タイガースでもう一度頂点を目指すのか。胸中は大きく揺れていたことは間違いない。それでも、最後は「阪神ファンがいる甲子園で、あそこに座って、あの景色を見る。本当に言葉では表せない特別な景色」とタテジマのユニホームに再び袖を通せる感慨をかみしめた。 去就を表明すると、坂本の視線はすぐさま来季へ向けられた。 「キャッチャーがしっかりしていれば勝てるピッチャーというのは、ずっと感じているので。それに責任が出るという僕の思い。とにかく勝つために一緒にやっていきたい」 リーグ屈指の厚みと安定感を誇る投手陣をリードし、どれだけ白星を積み上げることができるのか。捕手の手腕が問われる環境に身をおけることも「捕手・坂本」が残留を決めた大きな理由に感じる。 1年前に焼き付けた“てっぺん”からの景色をもう一度見に行く。 文=遠藤礼(スポーツニッポン・タイガース担当)
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