一度治っても半数以上がぶり返す…注意深く観察しないと気づけない「子どものうつ」の初期症状
■緊急性が高いときは入院や休学を勧めることも 抑うつや不安で受診したお子さんは、通常は外来で治療を行っていきますが、緊急性が高いと医師が判断すれば、入院や休学を勧めることもあります。 とくに緊急性が高いのは、自殺願望を強くもち、くり返し自傷をしたり自殺未遂を起こしたりしている患者さんです。摂食症が進行して栄養状態が悪化している患者さんも、ほうっておけば命の危険があるので早めの入院を勧めることがあります。 また、しばらく外来で治療を行ってもほとんど効果があらわれなかったり症状が悪化したりする場合や、家で療養していても日常生活に支障が出るような場合にも、「入院して治療してみてはどうですか?」と声をかけることがあります。 ■うつ病は初期段階の対応が重要 成人期までを念頭に治療するうつ病は、初期の段階で気づいて適切な治療を行えば回復する病気です。思春期に発症したうつ病でも、初期段階が重要なのは同じです。 「ちょっとだるそうだな」「疲れやすいみたい」と思ったら、子どものことを注意深く観察してください。朝、起きられなくなったり、食事がとれなくなったりしたら、うつ病の初期症状も疑われます。早めに専門医を受診しましょう。 うつ病と診断されたら、とにかく休ませてあげることが大事です。この時期に無理をしたり、焦って登校させたりすると、こじらせて長期化してしまいます。小児から青年期のうつ病にはまだ薬物療法の安全性が確立していません。また、認知行動療法も、ある程度言語化能力が発達していないと効果が出ないので、治療では環境調整が優先されます。
■子どものうつ病の約10%は慢性化する 児童・青年期のうつ病は1~2年で軽快することが多いものの、再発する可能性も高いとされます。この年代に発病した抑うつ症の予後調査では、93%は完全寛解したものの、53%は再燃(ぶり返し)が認められました。このため、いったん回復してもそれきりにせず、成人期まで念頭においた対応が必要です。 子どものうつ病の約10%は慢性化すると報告されています。慢性化したケースでは、不安症、物質関連症、パーソナリティ症が根底にある可能性も考えられるため、うつ病の治療だけで症状を完全に消失させるのは難しいと見られます。 治療法が本人に合っていれば半年ほどで回復の兆しが見られますが、回復後、元の生活に戻る際には要注意。数カ月のブランクでも、同級生の輪に戻るのは大変です。また、授業についていくのが困難になるからです。遅れをとり戻そうとがんばって再発することもあります。思ったように成績が上がらないと、ますます自己肯定感が下がります。 もちろん、そうしたハンディを乗り越えていく子もたくさんいますが、回復後も思春期特有の問題があることは周囲も認識しておきましょう。 ■子どもの場合は薬物療法が第一ではない 大人のうつ病の場合、休息と薬物療法が中心ですが、児童・青年期のうつ病では薬物療法が第一ではありません。 子どもの場合、薬物療法を積極的には行わない臨床試験によると、児童・青年期のうつ病に対する抗うつ薬使用は大人ほど有効ではなく、とくに三環系は有効性が確認されていません。SSRIの有効性は実証されていますが、効果が得られないこともあります。また、小児・思春期では自殺関連行動のリスクが高まるという問題もあります。 いずれの薬剤も子どもの場合、日本では臨床試験で有効性・安全性確認されておらず、保険適用ではないので積極的に用いることはできません。このため児童・青年期のうつ病には原則として、まず精神療法や環境調整、心理療法を行います。この時期のうつ病は、背景要因を探り、解決をはかることで改善することも少なくないのです。 過度の抑うつや精神運動抑制、不眠がある場合には、薬物療法も検討します。重度のうつや自殺の危険があれば入院治療も選択肢となります。 薬物療法を行う場合、小児には不安や焦燥感、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、衝動性、アカシジア(そわそわと動き回る)、軽躁状態、躁状態などが生じやすく、服用後2週間以内はとくに注意が必要です。 薬物療法のリスクを本人や親御さんに説明し、慎重に投与します。