「在庫セール」でブランド価値をどんどん下げていた… 売り上げ100億でも利益ほぼなし、会社の構造を変えた兄弟の経営手法とは
◆ジャムはおいしくないといけない
----具体的にどのような取り組みをしたのでしょうか? 例えば、当時の主力商品のジャムは、口に入れても害のない界面活性剤を使っていました。 しかし、実際に食べたらおいしくない。 誰が食べてもおいしい味を追及しようとしたとき、思い出したのが母の手作りジャムでした。 生産効率から考えると界面活性剤を使うべきなのですが、添加物を極力減らして手間をかけたジャムのほうが格段においしい。 製造現場では既存のやり方にこだわる意見もありましたが、二つのジャムの味を比べ、原材料の情報共有をしていくうちに従業員の目の色が変わりました。 たとえば、原料の新鮮さ、香味を味わえるように、保存料を極力控えました。 滑らかな食感や口当たりのため、ゲル化剤のペクチンを極力控えました。 特に、フルーツスプレッド「オールフルーツ」シリーズは、砂糖を使わず果物だけのおいしさで作っています。 「低温調理技術」「2段仕込み製法」で製造し、ブドウ果汁や白ワインで爽やかな酸みと甘みを実現しました。 チーム一丸になって商品力を高める方向に変わり、お店とのコミュニケーションも円滑にして、お客さんに新商品の魅力が伝わるようになりました。 おいしい商品を提供すればお客さんは自然と戻って来ます。 既存店の売り上げは、低迷期の1.5倍になりました。
◆売り上げ100億でも、ほとんど利益ナシ
----大きな問題点の二つ目は何だったのでしょうか? 構造的に抱えていた利益率の低さです。 私の入社当時、利益率は損益分岐点がちょっと上回る1~2%で低空飛行していました。 赤字の店舗を閉店すると、固定資産が償却されて最終赤字になる不安定な状態でした。 また、店舗投資を先行していたため、借り入れの依存度が高くなり、自己資本比率は悪いときで1%ぐらいでした。 売り上げ自体は100億円を超えてもほとんど利益が出ない。 さらに成長率は3%くらい。 利益率、自己資本比率、成長率という3つの数字を改善させる必要がありました。 ----どのようにして3つの数字を回復したのでしょうか? 大まかに言うと、客観視できる事業展開と組織構造の改革です。 私は現場を強くしていく姿勢はすごく大事だと思っているんですけれども、一方で会社を冷静に見る目も大事だと考えていました。 創業者である父は、バブル期のスキーブームのときにペンションを経営していましたが、スキーブームは長く続かないと考えて、ジャムの販売業にスイッチしました。 そして、今のサンクゼールがあるわけです。 常に危機感を持って事業を客観視することの大切さは、私と弟にも受け継がれていると思います。 また、何でも自社でやりすぎて逆に利益率を落とす部分があったので、物流や製造の一部をアウトソーシングするなど、任せられるところは任せる組織構造の見直しも効果的だったと思います。 FC展開もその一環で、今後もFC展開を進める予定です。 また、社長が何でも決裁するとボトルネックになって、効率とスピード感が失われます。 サンクゼールと久世福商店のそれぞれのブランドに決裁者を立て、各自で開発して製造して販売する自律的な組織づくりを進め、顧客の要望に素早くフィードバックできるように体質を変えていきました。 結果、23年3月期の営業利益率が9%、自己資本比率が46%、売り上げ高が178億円で年成長率が26%まで回復し、3つの課題を克服することができました。