フォーブスが「欧州トップの投資家」に選んだベルリン在住の45歳
ポーランド出身の投資家であるパヴェル・チュジンスキーがキャリアを変え、欧州トップのベンチャーキャピタリストになるきっかけとなったのは、2008年に土壇場で決めたベルリン訪問だった。 当時、チュジンスキーは米系投資銀行グリーンヒルのロンドン支社に勤務し、化学メーカーや自動車メーカーのディールや資金調達を支援していた。金融危機の影響で案件が減っていた最中に、彼は大学時代の友人から、ベルリンの有望なスタートアップ企業にエンジェル投資する機会についての情報を得た。 そのスタートアップとは、ポーランドに特化したオンライン・マーケットプレイスを構築していたNiania(ニアニア)という企業で、チュジンスキーは同社の創業者に会うために飛行機に飛び乗り、面談の場で2万ドル(約310万円)の小切手を渡した。それから半年も経たないうちに、彼は仕事を辞めてベルリンに移住し、大学時代の友人と一緒にスタートアップの支援を開始した。 「私には、起業家の友人が何人かおり、スタートアップの立ち上げに関わることを切望していた」と彼は話す。その後、ベルリンのスタートアップシーンの最前線に乗り込むためのチュジンスキーの賭けは成功した。 チュジンスキーは、わずか3年で最初のエグジットに成功した。ニアニアが、スイスの出版グループに買収されたのだ。それから約15年が経った現在も彼はベルリンに拠点を置き続け、ベンチャーキャピタル(VC)ファンドのPoint Nine Capital(ポイント・ナイン・キャピタル)の共同創業者として5億ドル(約800億円)を運用している。彼は、フォーブスが世界で最も高い実績を誇るベンチャーキャピタリストを選出する『ミダスリスト』の欧州版に5回選出されており、トゥルーブリッジによる欧州のベンチャーキャピタリストランキングの常連でもある。 チュジンスキーは、8月に450億ドル(約7兆円)の評価額で資金調達をした英国発フィンテック企業のRevolut(レボリュート)や、評価額が86億ドル(約1兆3600億円)のブロックチェーン分析ツール開発企業Chainalysis(チェイナリシス)、診察予約を手掛けるユニコーン企業のDocplanner(ドックプランナー)などへの投資を評価され、フォーブスが2024年12月12日に発表した2024年版の欧州ミダスリストのトップに選ばれた。 チュジンスキーは公の場に姿を現すことが少なく、ここ数年はインタビューに応じていない。先月、ポイント・ナインが閉鎖を検討しているという噂が流れた際には、創業パートナーのクリストフ・ヤンツが彼に代わって否定した。現在45歳のチュジンスキーは、フォーブスの取材にこの噂が全くの誤りだと語った。また、彼とヤンツが引退を考えているという話も否定した。彼によると、ポイント・ナインは新たなファンドの組成と、次世代の起業家の支援に注力しているという。 ■投資額の4分の1は北米に ポイント・ナインは、ドイツに本拠を置きつつも同国内での投資実績は比較的少ない。また、欧州のファンドには珍しく、投資額の4分の1を北米向けにしている。同社は、2014年に17億ドル(約2700億円)で上場したSaas大手のZendesk(ゼンデスク)やビデオ録画ツールのLoom(ルーム)、AI検索ツールのAlgolia(アルゴリア)に出資し、大きな成功を収めた。