読書感想文、図鑑はダメ? 子どもの〝嘆き〟に「私だけでも応援」 専門家が提案する〝ひと工夫〟
写真や解説だけじゃない、作者の思い
長島さんは、図鑑で感想文を書く魅力について、このように語ります。 「図鑑には『はじめに』や『この図鑑の使い方』や『コラム』といった読み物があって、実は作者の図鑑に込めた思想が、とても熱く語られています」 「特にコラムは、作者の人柄や図鑑作りの舞台裏を垣間見ることが出来るのです。読み解いて行くと、図鑑はただ集積された知が自動的な作業で並べられたものではなく、誰かが汗をかいて作ったものだという人間くささに気づくことができます」 図鑑というと、客観的な解説文と写真の組み合わせをイメージする人もいるかもしれませんが、上記の内容などを踏まえ、長島さんは「それはまったく違う」といいます。
「好きなもので書けるなら、認めてあげて」
さらに、多様な図書が感想文の題材になり得ることができれば、子どもたちの可能性も広がるという立場も示します。 「いわゆる長編小説のような文学作品を読むのが苦手でも、図鑑は隅から隅まで読むことができるという子もいます。それぞれが得意なもの、好きなものでなら感想文を書けるのなら、それを認めてあげるのは良いことだろうと思います」 また、長島さんも著書のひとりとなった『日本原色カメムシ図鑑第3巻』が出版された際、岩手の小学校の校長先生が出版社宛に送った図鑑の感想文と要望を書いた手紙が発端となり、その小学校と図鑑の著者の一人であるカメムシ研究者との交流が始まりました。 「この交流は『わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話』(福音館)という本になり、2021年の青少年読書感想文全国コンクールの、中学年の課題図書にもなりました。図鑑の感想文を書くことの意義は『ある』と言うしかない事例だと思います」
国語教育の専門家「ストーリーの中で」
では、実際に図鑑で読書感想文を書くことについては、国語教育の観点からはどのように考えたらよいのでしょうか。 読書感想文の代表的なコンクール「青少年読書感想文全国コンクール」の「自由図書の部」の要項では、「教科書、副読本、読書会用テキスト類またはこれに準ずるもの、雑誌(別冊付録を含む)、パンフレット類、日本語以外で書かれた図書および課題図書」が除外対象で、図鑑は除外対象には含まれていません。 一方、「課題図書の部」に並ぶ顔ぶれはというと、小説やノンフィクションの読み物が対象となっています。 国語教育に詳しい東京学芸大学の中村和弘教授は、「個人的な印象ですが、課題図書が読書感想文の対象図書のイメージを作っているように思います」と話します。 中村さんは、「図鑑が読書感想文の題材として適切ではないということではありませんが、感想文はストーリーラインの中で自分の考えや感想を綴ることが大切です」と話します。 「図鑑の場合は、写真や説明、最近ではコラムなども盛り込まれていて、情報のアクセス性に優れています。素材としてはとてもいいですが、そのままだと情報が単発で、書きにくいのではないかなと思います」 その上で、中村さんが提案するのは、複数の図鑑を読み比べてみたり、関連する本をひもづけてみたりして思考を広げ、感想につなげるというもの。 「一冊の本だけで書かないといけないという決まりがないのであれば、とってもおもしろい試みができると思います」