モデル鈴木えみ「性教育は、早ければ早いほどいいと思っている」子ども達の未来のために活動
圧倒的な美しさで私たちを魅了する鈴木えみさん。10代の頃からモデルとして誌面を飾り、ともに年を重ねてきた感覚すらあるのに、その存在はどこかミステリアス。先日も13年ぶりのTV出演がSNSで話題となりました。39歳を迎えたばかりの彼女が今もっとも情熱を注いでいるのは、子どもたちの未来のための性教育に関する活動。親として、大人として、行動を続ける彼女の想いに迫ります。〈yoi3周年スペシャルインタビュー〉 鈴木えみさんの写真をもっと見る
■自分を守り、人を大切にするために必要な教育とは何か ──最近鈴木えみさんが行っている性教育に関する活動が話題となっています。活動を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。 鈴木さん 私は11歳になる娘の母親でもあるのですが、これまでの子育ての中で、彼女が自分の身を守りながら、人も自分も大切にしていくにはどんな教育が必要なのか、ずっと考えてきました。 私自身、子どもの頃に嫌な経験をしたことがあり、彼女にはそういう体験をしてほしくないという思いも強かった。それもあって娘には幼少期から、プライベートゾーンに関する絵本などを読み聞かせをしていて、何か疑問に思うことがあったらすぐに親に話せる環境作りを日頃から心がけていました。 ある時それをSNSで紹介したら、すごく大きな反響があって。ママ友やパパ友などの親同士でも性教育の話題は触れづらいという声も多く、親として子どもの性教育にどう向き合っていくべきか迷っている方が多いんだなと知ったとき、何か私にもできることがあるんじゃないかと思い始めました。 ──日本の性教育はまだまだ制度が整っていないと感じます。それに比べて海外では性教育に関するプログラムももっと進んでいるんですよね。 鈴木さん そうなんです。私も最初は小学生になったら学校が取り組んでくれるんじゃないかなと期待していたのですが、学校によってかなり温度差があったんですよね。日本の現状としては、やっぱり家庭である程度やらないといけないなと思います。 こういった話題を何人かの友人に投げかけていたら、ものすごいスピード感で、命育をはじめとするメンバーが集まり、「Family Heart Talks(略してFHT)」という母体になりました。昨年からこれまでに4回、親子で参加できる性教育に関するイベントを開催しています。 ──イベントではどんなことをされているのでしょうか。 鈴木さん 私がナビゲーターとなって助産師さんなど専門家の方をお招きし、性教育に関する基礎知識についてお話ししています。イベントの環境によってケースバイケースではありますが、子どもが学ぶ時間と、大人が学ぶ時間を分けた2部制にしているのも特徴です。託児所の開設やキッズワークショップも同時にしているので、子どもたちは楽しみながらイベントに参加でき、大人も集中して話が聞くことができます。 時間が許すときは、参加者の皆さんからの質疑応答も受け付けていて、娘と出かけたときのお父さんたちの疑問だったり、男の子を持つお母さんからの悩みだったり、自分とは違った視点での話を聞くと、私も勉強になるし、新たな発見があります。 性教育は家庭や学校で共通認識を持つことが大事なので、そうやってみんなと感覚を共有していくことはとても有意義だと思っています。 ■大人の私たちこそが学ぶべき、包括的な性教育 ──実際にイベントを開催してみて、どんなことを感じましたか。 鈴木さん 毎回思った以上の反響をもらって、非常にありがたいなと思っています。でも問題は、ここからどう意識の裾野を広げていくかということです。なるべく参加者の皆さんのハードルを下げて、包括的な性教育がどういうことなのかを多くの人に知ってほしい。 そのためには、グッズや教材だったり、家庭で性教育を学べるツールがあるといいと思いますし、子どもたちにとっては年齢が近いお兄さんやお姉さんの話のほうが入ってきやすい場合もあるので、ティーン層のボランティア団体なども作っていけたらいいですよね。 家庭によっては、「早いうちから性教育なんて……」と心配されている方もいると思いますが、私は早ければ早いほどいいと思っているんです。実際に性教育を早くから徹底している国のほうが、初交年齢が遅いというデータもあります。 もちろん、いつ始めても遅いということはないのですが、思春期に入ってから急に話題に出すとお互い妙な気恥ずかしさが生まれたりすることもあるので、幼少期からスタートしておくことが大事だと思っています。 ──そのためには親たちも今の時代の子どもたちのための性教育というものを正しく理解する必要がありますね。 鈴木さん そうなんです。私が行っている活動そのものは子どもたちの教育をテーマにしたものですが、実は私たちの世代こそ、自分たちの子ども時代とは大きく変わってきている包括的な性教育というものを学ばなくてはいけないと思っています。 わかりやすいのは、人と自分との境界線を意味する「バウンダリー」という言葉。これも性教育を話すうえで大切な概念なのですが、例えば先日こんな話があって。大人数名に混ざって話していた10代の男の子に対して「最近どう? 彼女できた?」と聞いた方がいて、それに対して本人が「今はそういう話をみんなの前でしたくない。そもそもパートナーが彼女か彼氏か、それも決めつけないでほしい」と冷静に話したと。 こういう感覚って今の10代には比較的スタンダードになっているけれど、昭和生まれにとってはまだまだ浸透していない感覚の場合もあると思うんです。あと10年も経てば彼らと私たちは同じ社会で共に働くわけですし、お互いの境界線を尊重し合う感覚というのを、今の大人こそ知っておくべきだと思います。 人間関係って今も昔も大人も子どもも、実はあんまり変わらないと思っていて。性教育のイベントでも子どもたちに「くすぐり合いっこは楽しいけど、気分じゃないときはNOと言おう」という話をすることがあるんですけど、これって大人でも、友人やパートナーに対して言えることだと思っています。 例えば逆に自分がNOと言われた場合、自分自身を全否定されていると感じることがあると思うんですが、そこでバウンダリーという言葉を理解して定義すると、「今が気分じゃなかっただけなんだ」と落としどころを見つけられることもある。 人間関係が拗れそうになったときに、自分の思い違いだったかも、誤解だったかもという余白があれば、そこまで自分が傷つく必要もなかったというケースは誰しもあるんじゃないかなと思います。 ■小さな習慣の積み重ねが未来を変える ──ご自身が「NO」を相手に伝えるときに心がけていることはありますか? 鈴木さん 私はもともと「NO」を伝えてきたタイプなので、大抵はストレートに言います。その積み重ねで「えみはそうだよね」と理解してもらえることが多いんですけど、時にはそれを「AB型っぽいね」と揶揄されることもあったり。でもそれって血液型でもわがままでもなくて、自分の気持ちに正直なだけなんですよね。 私たちの世代の人は特に、自分の気持ちにフタをし続けてきたせいで何が嫌なのか、それにすら気づけなくなっている人も多いと思います。ずっと平気なフリをしちゃっているというか。子どもたちにはそういう環境で育ってほしくないので、例えば小さなことですけど、着替えるときも「今からお着替えするから、脱がせるけどいい?」と本人の意志を確認することも大切です。たとえ親子間であってもお互いのバウンダリーは尊重し合う。そういう日頃の小さな習慣が、世の中の意識を変えていくんじゃないかなと思っています。 ──えみさんから見た今の子どもたちの世界で、私たちと違っていると感じることはなんですか? デジタルネイティブ世代なので情報過多に慣れすぎていて、何か課題を与えられていないと不安になってしまう子どもたちが多い気がします。どんなことでもすぐにネットで調べられる反面、間違った情報を受け取ってしまうことも多いので、自分でどう情報を選ぶか、ファクトチェックをどう行うかが本当に難しい。これは大人も同じですよね。 性教育に関しても、子どもたちにとっての性に関する最初の情報が歪んだものであってほしくない。だからこそ、家庭や学校で正しく学ぶことが大切だと思っています。そのためには、大人も性教育を学んで、意識をアップデートしておかなくてはいけない。私たちの活動が社会の意識を変えるサポートになればいいなと思っています。