「新しい家族のかたちを提案したい」ドイツ在住作家が“パッチワークファミリー”をテーマに絵本出版
変化する日常を描いた絵本。離婚や再婚、LGBTQ+などもテーマに
本作は、時が経つとともに変わっていく日常や家族のかたちが、小さな女の子の視線で描かれた物語。前髪が伸びる、自転車が大きくなるというようなささやかな変化だけでなく、家族の死や両親の離婚など、悲しく複雑な家族の変化も描かれている。 物語の中盤からは、女の子の両親が離婚し、新しい家族のかたち、いわゆるパッチワークファミリーが築かれていく。血のつながりや性別にとらわれない家族のかたちを、ポジティブに受け入れていく女の子の姿が印象的だ。
「パッチワークファミリー」のような新しい家族のかたちや、幸せを提案したい
パッチワークファミリーというテーマを取り入れたのは、いそがいさんが日本の家族観に対してある違和感を抱いていたからだ。 「日本では、両親が離婚したあと母親が子どもの責任をすべて負う、父親が何十年も子どもに会えないというような状況が多くあります。ドイツに20年以上住んで、そのような状況が不便だと思うようになりました。女性だけ負担を負うのも、父親とのつながりがゼロになるのも、すべてが重くて複雑になりすぎているような気がします」 ドイツでは、離婚や別居をしても、子どもが成人するまで父親と母親が協力して子育てをするのが一般的だ。週の半分は母親の家に住み、残りの半分は父親の家で過ごすという子どもも珍しくない。また、誕生日やクリスマスなどのイベントの際は、別居中の片親とその新しい家族も集まり、一体となってお祝いをするそうだ。 「もちろん家庭の事情や各国の文化的背景の違いもありますし、どちらがいいという話ではありません。ただ、パッチワークファミリーのような家族のかたちや幸せもあるということを提案したかった」
事実婚や同性婚...。「家族」という大きな枠は同じ
かつて「夫婦ふたりと子どもがいる家族」が理想と考えられてきたドイツでも、女性の社会進出や離婚率の上昇をきっかけに、家族のかたちが多様化した。パッチワークファミリーのほか、事実婚、同性婚、養子縁組で子どもを迎える家族、ひとり親家庭などさまざまだ。いそがいさんは、婚姻関係を結んでいないパートナーと子どもの3人で暮らしているという。 「ドイツでは、法律婚だとか事実婚だとか、嫡出子だとか非嫡出子だとか、同性婚だとか、社会的にはっきりとした区分がないように感じます。もちろん、制度上の細かいことは異なりますが、結婚や家族という大きな枠としては同じ扱い。私自身、パートナーと婚姻関係を結んでいないからといって何も不利益がありません」 非伝統的な家族のかたちであるからといって、色眼鏡で見られたり、物色されたりすることもないそうだ。一方日本では、伝統的な家族観からはずれると「訳あり」「普通ではない」などと見られることも少なくない。 「私が幼い頃、親が離婚しているクラスメイトは決まって『かわいそう』と言われていました。そんなの、まったく言われようのない偏見です。日本でも3組に1組が離婚するといわれる時代です。社会の実態に合わせて、制度や人々の意識も変わっていくべきではないでしょうか」