“生きる力”をどれほど信じられるか──コロナ禍で逃げ場を失った人、よりそう「声」の現場 #今つらいあなたへ
「女性にとってコロナ禍は地獄」
2020年、よりそいホットラインを運営する一般社団法人社会的包摂サポートセンターに寄せられた「女性のDV・性暴力被害」の相談件数は約1万4000件。そのうちの半数が性被害で、その21.9%が10代だ(いずれも速報値)。同法人の事務局長・遠藤智子さんは、コロナ禍が進むなか、DVだけでなく、若年層への性暴力が家庭内で多く起きていると感じている。 「加害者の多くは父親や兄です。コロナ禍で自粛を余儀なくされ、楽しいこともなく、ストレスをため込んだ結果、娘や妹など弱い立場の人を性的なターゲットにするケースが増えたのではないか。『家族』の中で、女性を人間として扱わない『モノ化』が進んでいるとしたら、事態は非常に深刻です」
家庭以外にも、女性がパートやアルバイト、派遣先の職場で上司や社長から性的関係などを強要される事案も増えているという。コロナ禍で雇用が不安定になり、職を失うのではという女性の不安につけ込む悪質さだと遠藤さんは憤る。 「仕事を失い生活が困窮して、パパ活や援助交際、売春的行為に追い込まれる女性も増えました。ところが、そこで危険な目にあったとしても、自己責任だと非難されるのがいまの社会です。女性にとってコロナ禍は地獄だと言う人もいる。若い女性を追い込まない社会にしないと、彼女たちの自死は減りません」 経済の低迷で、交際相手や夫からの経済的搾取も多発している。失職した男性が、ゲームの課金やカード返済のために女性を風俗で働かせたり、売春的行為をさせたりする。世帯ごとにまとめて支払われた特別定額給付金を、世帯主である夫が妻と子どもの分まで自分勝手に使う。 「家族が『生活費や子どもの学費に回してほしい』と懇願しても、暴力を振るわれ拒絶されたという話も聞きました。精神的暴力と経済的暴力がセットになったケースが多いのが、コロナ禍での特徴だと思います」
ステイホームで暴力の連鎖
よりそいホットラインは、若者が悩みをつぶやいたり気軽に相談したりできるクラウドサービス「Moyatter」も運営している。よりそいホットライン制作の『2019年度報告書データ』によると、用いられた単語で最も出現回数が多かったのは「死ぬ」の2万4370回、名詞の「死」も6335回。つまり、自らの希死念慮を示すような内容が多いという。 厚生労働省の発表によれば、2020年の自殺者数は2万1081人で、リーマン・ショック直後の2009年以来、11年ぶりに増加した。男女別では女性が2年ぶりに増加。年代別では20代が最も大きく増加。そして小学校~高校までの児童・生徒の自殺者数は、過去最多となる499人を数えた。 臨床心理士として、よりそいホットラインのコーディネーターを務める坂井あずみさん(37)も「女性からの相談は非常に増えた」と実感を込める。その要因は、やはりステイホームだ。 「コロナ前だったら、妻はパート、夫は仕事と、時間をさほど共有しない家庭が少なくなかったでしょう。でも、コロナでパートがなくなり、夫もリモートワーク、子どもも家にいるという状況が増え、苛立ちが募っていった。そのはけ口が、男性の場合は妻や子への暴力、女性の場合は子どもへの虐待という形で出てくることもある。自分より弱い立場、弱い立場へと暴力が連鎖してしまうのです」