“生きる力”をどれほど信じられるか──コロナ禍で逃げ場を失った人、よりそう「声」の現場 #今つらいあなたへ
コーディネーターの一人である元島さんは、緊急性の高い相談者とは直接会って面談し、行政機関や病院など関係機関に同行している。「その人にとっては人生の非常事態。消防士が火事場に出動するのと同じです」 「希死念慮が強く、すぐにでも警察に電話しなければいけない緊急のケースもあります。でも、僕らの仕事において最初にやるべきことは、『死にたい、死ぬしかないんだ』と思いつめている人の、まだ語りきれていない胸の中の思いを、真剣に聞くこと。その時間こそが、よりそいホットラインの肝なんです」
性暴力のトラウマで暴れる19歳
つい先日も「父親から性被害を受けている」と電話をしてきた19歳の女性を保護した。「僕自身も別部屋に宿泊しないといけないくらい不安定で、毎晩トラウマで暴れるようなひどい状態でした。自傷行為や命の心配もありました。明らかに保護が必要だったのですが、警察も行政も病院も何もできないと言うんです」 そこには制度の壁があった。児童相談所で保護できるのは18歳未満までで、親の同意なしに家を借りたり、病院に入院したりできるのは20歳から。19歳である彼女の場合は、どちらにも当てはまらなかった。元島さんは役場に何度も掛け合い、首長の同意を得て、彼女を入院させることができた。
コロナ禍での対応で元島さんが感じるのが、「行政の壁が厚くなり、越えにくくなったこと」だという。例えば生活保護。制度上は、確かに以前より申請が通りやすくなった。2021年1月には田村憲久厚生労働大臣が「(家族に生活援助が可能かを問う)扶養照会は義務ではない」と正式に国会答弁、これには元島さんも「画期的」と喜んだ。 だが、制度が整えば整うほど、その制度のどこにも当てはまらない人が排除されやすくなる。前出の19歳の女性も福祉の網からすっぽりと抜け落ちていたにもかかわらず、誰も“壁”を越えようとしなかった。 元島さんはそんな例はほかにもあると話す。あるとき、2週間ほとんど食べていないという、一人暮らしの20歳の男性から連絡があった。事情があって親には頼れず、生きる気力も失っている。 一時的な食料支援だけではどうにもならないと判断した元島さんは、彼に生活保護を勧め、申請に同行した。しかし、役所は親に扶養照会をすると言う。先の国会答弁を引き合いに「柔軟に対応してほしい」と元島さんが迫ると、「10年間、親と連絡が取れていない場合は許可します」と言い返された。男性の年齢を踏まえると、10歳から親と絶縁していないと助けない、というわけだ。 そのような想像力のなさ、人間的な支え合いの喪失は、このコロナ禍で加速したと元島さんは感じている。 「人と会ってはいけない。マスクで表情がわからない。演劇が中止され、映画館や美術館が閉鎖され、旅行や飲み会もできない。そんな状況下で、人間らしい気持ちやエネルギーの交換が少なくなってきていることも、深く関係しているのではないかと思います」