若い漫画家から飛び出した「手塚治虫って誰ですか?」…令和の若者にこそ読んでほしい手塚漫画とっておきの「2作品」
「手塚治虫って誰ですか?」
筆者は漫画やアニメ関連の取材を行っているが、若い漫画・アニメファンと話をすると「手塚治虫の漫画を読んだことがない」という人がかなり増えていると感じる。若い漫画家やアニメーター、イラストレーターにも多い。「手塚治虫って誰ですか?」と話す、デビューしたての新人漫画家にも会ったことがある。 【写真】手塚治虫の息子で映画監督の手塚眞氏。生成AIを使った「ブラックジャック」の新作を手がけた
一方で、水木しげるの作品の認知度は極めて高いのが印象的だ。『ゲゲゲの女房』が、2010年度上半期のNHK連続テレビ小説でドラマ化され、大ヒット。その年の「ユーキャン新語・流行語大賞」には「ゲゲゲの~」が選ばれた。そして、2023年にはアニメ映画 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が大ヒットし、若者のファンの獲得に成功している。 一方で、手塚作品はドラマ化などのメディアミックスは行われているものの、ヒットという意味では今ひとつといった印象は否めない。それが、手塚作品の認知度を下げている要因ではないかと考える。筆者は手塚作品のファンであるが、ストーリーが素晴らしいのは言うまでもなく、魅力的なキャラも多いのに生かし切れていないのを残念に思う。 そして何より、漫画やアニメを学んでいる学生が、手塚作品に触れていないのだという。そんな実態を伝えてくれたのが、大阪芸術大学の映像学科で特任准教授を務め、商業アニメーションを教えている金澤洪充(ひろみつ)氏である。「手塚作品に触れないのはもったいない」と感じているという金澤氏に、学生の現状、手塚作品に触れる意義について話を聞いた。
手塚作品が若い人達に引っかからなくなった
――アニメや漫画を問わず、手塚治虫の作品に触れていない学生は多いのでしょうか。 金澤:多いですね。情報が急速に流れる時代の中で、新しいものを目で追うのが精一杯になり、手塚作品が若い人達に引っかからなくなったのだと思います。これは、手塚作品のみならず、戦後すぐにデビューした漫画家、例えば横山光輝先生の作品などもそれにあたると思います。 ――金澤先生が、学生が手塚作品を読んでいないと気づいたきっかけはなんだったのでしょうか。 金澤:講義で学生たちの顔色や表情や行動を見ていると、知らない作品名やクリエイターの名前が出ると一斉にノートを取り始めるのです。年度はじめの授業で手塚先生の功績を紹介したところ、学生たちがばっとノートに向かったので、その時に気づきました。対して、近年のメジャー作品は知っているので、筆記する手が止まるのです。 ――私の印象では、昔の漫画・アニメを観ずに、流行りの作品ばかりを追いかけている10代が多い気がしますが、どう思われますか。 金澤:そうだろうなと思いますし、仕方がないなとも思います。ですが、観る機会を得る学生もいます。私が指導する今の20歳前後の学生は、親の世代が私と同じぐらいで、結構「親が観ていたから自分も観た」というお話を聞くことが多くなりました。ご両親とアニメや漫画を楽しめる世代って羨ましいですよね。その方は世代を超えたエンターテイメントの楽しみを持っているので、指導しやすいです。向こうから自分の世代に近づいて来ていますからね。