【韓国ドラマ】心震える見応え「胸に響くドラマ」
1960年前後の世界最貧国の一つといわれた韓国を舞台に謎の政治フィクサーと経済国家の夢を追う青年の切なき野望を描くフィクション。複雑でわかりにくいのに、見終わった後は胸いっぱいになる。 【写真】まだまだある!超おすすめ韓国ドラマ
名匠ソン・ガンホ(映画「パラサイト 半地下の家族」「タクシー運転手~約束は海を越えて~」など)のドラマ初出演作品ということで、鳴り物入りで配信された今年の話題作ではありますが、なぜか私の周囲では視聴している人があまりいないのがこれまた、めちゃ残念だなあと思う作品です。確かに登場人物も多く、韓国の混乱を極めた時代の政治の舞台を背景にしているせいか、内容自体が結構複雑ではあるのですが、実はテーマ的にはかなりシンプルで私的には涙なくしては観られないというか。 舞台となるのはクーデターによって軍部が政権を握る以前の世界最貧民国の一つといわれていた1960年前後の韓国。ソン・ガンホが演じる主人公のドゥチルは、貧困極める朝鮮戦争の間も、家族を飢えさせないために一日三食(韓国語でサムシク)を与えたという逸話をもち、そのことから“サムシクおじさん”と呼ばれるようになった人物です。お腹いっぱい食べさせてあげること、そのためには人殺しさえも厭わないドゥチルは、今では政治の裏で暗躍するフィクサーとなっているのですが、そんな韓国を三食食べられる富める国にしたいという夢を持っているわけです。
主演のソン・ガンホ(右)とピョン・ヨハン(左)。© 2024 Disney and its related entities
でもって、ピョン・ヨハンです。彼が演じるのはアメリカで経済学を学び、帰国後は内務省国家再建局に勤務するキム・サン。彼もまた貧しき韓国を産業国家にするという野心を抱いているのですが、現実に阻まれてなす術なしという現状。そんな中、あることから突如演説をすることになった彼は自分が抱く夢についてこう叫びます。「誰もが1日三食、腹いっぱいに食べる国を」と。自分が富むことしか頭にない政治家たちばかり見てきたドゥチルはこの演説を聞き、やっと同じ夢を持つ同志に会えたと心躍らせます。その姿は永遠の恋人を見つけた、ちょっと年のいった少年のようでもあり、さりげなくそんなニュアンスと頃合いを感じさせる演じ方の上手さはやっぱり名匠ならでは。 ドラマは、そんな二人をさまざまな思惑はびこる政治の中に描いていくわけですが、探り合い、騙し合い、談合し合い、貶め合い、そして、邪魔な人物は抹殺するという政治の世界の凄まじさに加えて、迫りくるクーデターの気配。はたして二人は夢を果たすことができるのか、それとも海の藻屑と消えるのか。過去、現在、その後が並行しながら描かれる構成もちょっとわかりづらくはありますが、人物相関図を手元に最後まで二人の夢の行方を見守ってほしい。ドゥチルが何度か目を輝かせながら口にする「ピザを食べたことがあるか」というセリフが私には今なお忘れられないのです。 ■ディズニープラス スターで全話独占配信中
文/山崎敦子