「入れ歯で失敗したくない人」必読 歯科医が解説する後悔しない入れ歯づくりのポイント
自分の希望にあった快適な入れ歯をつくるためのポイント
編集部: 今使っている入れ歯に「噛めない」「痛い」「外れる」などの不満がある場合、新たに作り直すことでそれらの問題を解決することはできるのでしょうか? 遠藤先生: 近年の入れ歯は素材や製作の技術もレベルアップしているので、高い知識や技術を有した歯科医師・歯科技工士であれば、見た目も自然で機能的な入れ歯をお作りすることができます。 一方で、快適な入れ歯をつくるためには素材や製作の技術だけでなく、お口の中を入れ歯に適した環境に整えてあげることも非常に重要です。 編集部: 入れ歯をただ作り変えるだけでは、満足のいく入れ歯にはならないということでしょうか? 遠藤先生: その通りです。入れ歯に適した噛み合わせと粘膜(土手)の条件を整えておかないと、どんなに良い入れ歯を作製しても「噛むと痛い」「入れ歯が合わない」という状況を引き起こしてしまいます。 したがって、入れ歯を作る前に、入れ歯にとって最適なお口の環境へ整える「前処置」をしっかり行うことも、入れ歯で失敗しない重要なポイントといえます。 編集部: 入れ歯には「保険」と「自費」の2種類がありますが、やはり自費の入れ歯のほうが快適で機能的な入れ歯になるのでしょうか? 遠藤先生: 保険の入れ歯は使用できる素材や製作過程が限定されるため、より快適な入れ歯を求める場合、自費(自由診療)の入れ歯も検討して選択の幅を広げてみるのも良いと思います。 その場合、噛む機能を重視するのか、見た目の自然さを重視するのかなど、費用対効果の基準をどこに置くか明確にしておくとよいでしょう。 一方で、どんなに費用をかけてもやはり入れ歯の限界はありますから、自身の予算内で妥協点をどこにするのかを考えておくことも大切です。入れ歯への要望と現実的な面(費用面)を考慮しながら、歯科医とよく相談して選択していただきたいと思います。
入れ歯を長く・快適に使い続けるために日頃から意識しておきたいこと
編集部: 新たに作った入れ歯をより長く、快適に使いつづけるためには、どのような点に注意したらよいでしょうか? 遠藤先生: 先ほどもお話ししたように、まずは入れ歯を一日中お口の中に入れておくのは控えましょう。お口の中が不潔になるだけでなく、入れ歯の土手となる粘膜下の骨の吸収が進行し、入れ歯の寿命を縮めることにもつながります。 くわえて、ご自宅で入れ歯を外したときは、入れ歯とお口の両方をしっかりお手入れすることも大切です。 編集部: 具体的なお手入れの方法を教えてください。 遠藤先生: 入れ歯のお手入れでは専用のブラシを使い、汚れを丁寧に落として残さないようにしましょう。入れ歯を洗い終わったら、入れ歯洗浄剤を使用するとさらに効果的です。部分入れ歯をお使いの方は、残っている歯をしっかり磨くことも忘れないようにしてください。 とくに金具(クラスプ)がかかる歯は汚れがたまりやすいので、歯ブラシをしっかり当てて丁寧に汚れを落としていきましょう。以上のセルフケアにくわえ、入れ歯を快適に長持ちさせるうえでは、治療後も歯科医院で定期的にメンテナンスを受けることが重要です。 編集部: 入れ歯を長持ちさせるために、歯医者さんではどのようなメンテナンスを行っていますか? 遠藤先生: 総入れ歯の方の場合は、まず粘膜(入れ歯を受け止める土手に相当する部分)の状態を確認します。患者さん自身がとくに痛みなどの症状を感じていなくても、粘膜が傷ついていないか、炎症が起きていないかを調べることが大切です。 もし、何か問題が生じているようであれば、その問題が入れ歯に起因しているかどうかを診断し、必要に応じて調整を行っていきます。くわえて、患者さんご自身では掃除しきれない入れ歯の細かい汚れや着色なども、専用の超音波洗浄機でしっかり落としていきます。 編集部: 部分入れ歯の場合は、歯科医院でどのようなメンテナンスを行いますか? 遠藤先生: 部分入れ歯が担う重要な役割の1つは「残っている歯に負担をかけずに守ること」ですので、歯や歯ぐきの状態をしっかり確認し、必要に応じてクリーニングや治療を行っていきます。そのほかのメンテナンスについては、総入れ歯とほぼ同じです。 編集部: 入れ歯は「作ったら終わり」ではなく、その後も上記のようなメンテナンスを歯医者さんで行うことが長持ちさせる秘訣なのですね。 遠藤先生: 入れ歯も長く使っているうちに歯がすり減ったり、歯ぐきや骨の形が変わったりするので、そのあたりを歯科医院でよくチェックしてもらい、必要に応じて治療や入れ歯の修理・調整を行うことが大切です。 合わない入れ歯を使い続けると骨がどんどん痩せて、次に新しく入れ歯を作り直してもピッタリあわなくなる可能性があります。したがって、治療後も定期的に入れ歯のメンテナンスに通っていただきたいと思います。 編集部: 最後に、読者へメッセージをお願いします。 遠藤先生: 入れ歯専門医として、これまで「何度作り変えても入れ歯が合わない」とお困りの患者さんを多く診てきました。その方々に共通しているのは「現在のお口の状態が入れ歯を入れるのに適していない」という点です。 前述のとおり、失敗しない入れ歯づくりで忘れていけないのは「入れ歯に適した噛み合わせと粘膜の条件を整えること」だと私は考えます。 したがって、入れ歯の種類や材質、形態だけでなく、自身のお口の中がどのような状態にあるのかも信頼できる歯科医にご相談いただきたいと思います。