自律神経の専門家が教える「体の不調が起こりにくくなる」呼吸法
忙しい毎日のなかでも実行可能な、医学的に正しい呼吸法で、病気を寄せつけない健康な体を作りましょう。『PHP』2024年8月号では、順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんに自律神経をコントロールする呼吸法についてお話を聞きました。(構成・文:高橋裕子 イラストレーション:なかむら歌乃) 自律神経が整う「長生き呼吸法」 ※本稿は、月刊誌『PHP』2024年8月号より、一部編集・抜粋したものです。
健康の決め手は自律神経と腸内環境
健康の秘訣はきれいな血液を全身にめぐらせることです。きれいな血液はサラサラと流れて全身に酸素や栄養を届けます。すると免疫機能が正常に働くので、病気を寄せつけません。 ところが、よごれた血液はスムーズに流れず、全身の細胞は酸素や栄養が不足がちになります。「血液の質は腸で決まる」といわれ、腸内環境が整っていれば、きれいな血液が作られます。また、自律神経が整うと血流がよくなります。 ところが現代人は、ストレスや偏った食事、運動不足、不規則な生活などで腸内環境や自律神経が乱れがち。これらを改善するためには生活習慣の見直しが必要であり、その中でも特に大切な一つが、ふだん無意識に行なっている「呼吸」なのです。
呼吸法で自律神経をコントロール
呼吸の役割は、酸素と栄養を肺や血管を通して体のすみずみまでいきわたらせること。本来、私たちは一分間に12~20回の呼吸をするところ、最近はストレスで呼吸が浅く、速くなっている人が増えています。 呼吸は自律神経がつかさどっています。呼吸が浅く、速くなると交感神経が優位になり、血管が収縮して血流が悪くなります。さらにそれが常態化すると生活習慣病やうつなど心身の不調を招きます。逆にゆっくりとした深い呼吸は副交感神経の働きを高めます。血管をゆるめて血流をよくし、健康寿命を延ばしてくれます。 私が考案した「長生き呼吸法」は自律神経と腸内環境を一緒に整える最強の健康法であり、しかも一日1分でok。ぜひ毎日の習慣にしてください。
自律神経、腸内環境と呼吸の深い関係
呼吸にはどんな効果があるのでしょうか? 自律神経のバランスと腸内環境を整えるメカニズムを解説します。 \自律神経のバランスを整える/ ・深く吐くと副交感神経の働きが高まる 心身の健康を維持するためには、交感神経と副交感神経の両方を高いレベルで働かせることが必要です。私たちは呼吸をするとき、肺を囲む肋骨のまわりの筋肉や横隔膜を動かすことで肺を収縮させています。その横隔膜の周囲には、意識しなくても呼吸できるように自律神経が集まっています。 ストレスを受けやすい現代人の多くは副交感神経の働きが弱まっている状態。長生き呼吸法でゆっくり深く息を吐くと横隔膜の動きが大きくなり、副交感神経が刺激されて活性化します。その結果、自律神経のバランスが整うのです。 ・長く吐くと血流がアップする 肺を納めている胸腔には血流量を調整する「圧受容体」があります。息を吐く時間が長くなるほど圧受容体に圧力がかかって血流がアップし、連動して副交感神経も刺激されます。長生き呼吸法で息を「吐く」時間が、「吸う」時間よりも長いのはそのためです。 \腸内環境を整える/ ・ぜん動運動が活発になる 腸は自律神経の支配下にあります。交感神経が指令する拡張と、副交感神経が指令する収縮が繰り返されるぜん動運動によって、腸 は食べ物からとった栄養を体内に吸収し、老廃物を肛門へと移動させていきます。自律神経のバランスが整ってぜん動運動が活発になれば、便秘にならずに善玉菌優位の腸内環境が保たれます。 ・横隔膜による腸のマッサージ効果 横隔膜は膜状の筋肉です。長生き呼吸法で横隔膜が上下に動くことで腸がマッサージされ、腸の機能を回復させます。