「やっぱりそうだよね」 タワマンでの緊急事態 現役の救急救命士が打ち明ける意外な“困難”
「管理人が24時間勤務しているならばいいのですが」
タワーマンションは、不動産の夢の象徴として人気を呼び、多くの注目を浴びている。全国で建設が進む一方で、エレベーターの移動に時間がかかるなど生活上の困り事が指摘されている。荷物配送やフードデリバリーにおける“タワマン配達”の過酷さが話題になる中で、実は、もう1つの“心配事”がある。タワマンにおける救急救命活動で、強固なセキュリティーが、かえって救急隊の悩みのタネにもなっているというのだ。消防官として20年以上のキャリアを持ち、SNSで啓発・情報発信にも取り組む救急救命士が打ち明けた。 【写真】「それが一番不快でしたね」 都内タワマンへの配達、従事者が愕然とした貼り紙 「最新のタワマン。腹痛で歩けないという高齢者から救急要請。部屋の玄関で座り込んでて入口の集合ロックを開けるとこまで行けないと言う。運良く宅配の方が開けていたので一緒に入り、エレベーター前にもロックがあるもUberと一緒に入れてもらう。皆が言う。『ここ、死にそうな時絶対助からないね。』」 Xにこう書き連ねた救急救命士は、「たたら★救急救命士(@QQpickm)」のアカウントで、SNSを通して救急救命活動に関わる問題提起を行っている。今回も考えるきっかけを提供する投稿を行った。 多くの反響が寄せられ、「タワマン、エレベーターも長いからなあ。緊急時に大変だ」「昔からそうじゃないかと思ってたけどやっぱりそうだよね」「オートロックも良し悪し」「セキュリティーを上げ過ぎると自分が助かりたい時に助からない可能性が」「本来なら、緊急者用アクセスキーを用意すべきですよね」「最新高層オフィスビルも、各人ごとカードの権限でエレベータで行ける階が制限されるので、非常時は大変です」など、議論を呼び起こしている。 この救急救命士は「近年都市部で建設されるタワーマンションは高いセキュリティーをうたい文句としているところがほとんどです。しかしながら、そのセキュリティーの高さ故に緊急事態が起きた時に手遅れになる危険性もはらんでいると感じます」との危惧感を示す。 どんなことが実際のリスクとして生じるのか。タワマンの構造や救急要請を行う住民の容体にも左右されるといい、「具体的には救急隊の接触の遅れです。多くのタワマンではまずエントランスで部屋番号を押してドアを開錠してもらう必要があります。さらにエレベーターもエントランスで押したフロアにしか止まらない仕様になっていることが多いです。患者が動くことができて開錠操作をできる状況ならばさほど問題はないのですが、通報後に意識を失ったり、歩ける状態ではない時に問題が顕在化します」。 別の部屋の住民に頼んでエントランスを開けてもらうことはできるが、エレベーターや階段にもロックがかけられている場合、立往生となってしまう可能性がある。「こうなると消防隊を呼んで進入するしかありません。スムーズに行けば非常用エレベーターを探し出し、専用のキーを使って該当フロアまで行けると思います。しかし、ここからさらにベランダ側へ回るのに様々な方法を取ることになります」。防災センターなど係員が24時間常駐していれば、緊急時に鍵を開けることが可能だが、1つ1つの現場で事情は異なるという。 一刻を争う人命救助。「タワマンは一般的なマンションと比べても患者と接触するまでに1~2分は余分に必要ですし、自らが開錠できない場合には10~20分ほど要することがあります。もし心筋梗塞や心肺停止の状態であった場合、救命率が極めて低下することは明白です」と実情を明かす。 もちろんタワマンは安心安全な設計・建設が基本で、個人の居住空間の選択は自由である。ただ、住民側が普段から緊急時の対応を想定して備えることも大事になってくるだろう。日々救命活動に全力を尽くしているこの救急救命士は「管理人が24時間勤務しているならばいいのですが、そのようなところは少数かと思います。リスクの高い持病をお持ちの方は居住すること自体を熟考されるべきだと思います」と話している。
ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム