九州交響楽団と太鼓奏者の林英哲が共演…新たな音楽表現の可能性を追求する首席指揮者・太田弦
今年から九州交響楽団の首席指揮者を務める太田弦は、型にとらわれず、九響の新たな音楽表現の可能性を追求している。今回の定期演奏会も、プッチーニの「4声のミサ曲」に後半は日本人作曲家の現代曲2曲を合わせるという斬新なものだった。 【写真】九州交響楽団の首席指揮者を務める太田弦さん
九響初演となった石井真木の「日本太鼓群とオーケストラのための『モノプリズム』」では、太鼓奏者の林英哲やその弟子によるユニット「英哲風雲の会」と共演。林は「この作品によって太鼓を続けることになった、まさに人生を変えた曲」と語る。今年2月に亡くなった指揮者の小沢征爾が、林らと共演するために親交のあった石井に依頼して作られたこの曲は、日本太鼓をモノクローム(単色)に見立て、そこにオーケストラの音楽が反射するさまを表現している。
オーケストラが奏でる神秘的な世界の中から、ささやきのようなピアニッシシモの締太鼓の音が現れると、一定のリズムのまま激しさを増し、管弦楽器だけでなくタムタム、ゴング、マラカス、アンティークシンバルといった多種多様な打楽器が色彩を加えていった。
中間部で林が演奏する大太鼓の迫力は圧巻。腹の底に響くような音圧は、林の力強いバチさばきという視覚的な要素も相まって、音楽鑑賞を超える体験だった。妖しさをたたえたまま終結部へ向かって最高潮に盛り上がるオーケストラは、明瞭で厚みのある音と豊かな表現力で、太鼓群に光を放った。
日本の伝統的な音楽を西洋音楽とどう融合させていくかというこの曲そのものがクラシック音楽の世界での挑戦と言えるが、それは、半世紀前、辛辣とされるボストンの聴衆を前に初演に挑んだ林らの姿にも重なる。今公演後、「太田さんや九響の情熱が素晴らしかった」と語った林。太田とともに着実にレパートリーを増やしている九響の新しい挑戦を目の当たりにした。(後田ひろえ) ――11月7日、福岡市・アクロス福岡。