パンタグラフの先祖、「ほぼ棒だけ」の装置が日本の営業路線でラストラン
電車が架線から電気を得る際に使われる装置は、「集電装置」と呼ばれています。現代の日本では、その多くが「パンタグラフ」という折り畳み式のものとなっています。一方、過去にさかのぼると、集電装置にはさまざまな形のものが見られました。 【画像】パンタグラフの先祖、「ほぼ棒だけ」の装置とは? その中でも最初期に登場したものが、「トロリーポール」というもの。棒の先端に車輪、あるいは溝のついた装置をつけたもので、これを架線に押し当てて、架線から電気を得るものです。後に登場した「ビューゲル」や、現在主力のパンタグラフと異なり、長さを占める大部分はほぼ棒だけのため、非常に単純な仕組みです。 構造が簡単なトロリーポールですが、デメリットもいくつかあります。たとえば、架線への追従性が悪いこと。車両が上下左右に揺れたり、あるいはカーブを通過した際、トロリーポールは架線から外れてしまうことがあります。もちろん、外れると車両は走行できなくなってしまうので、乗務員が架線に再接続させる必要があります。そのため、トロリーポールには、乗務員が動かすためのケーブルが備え付けられています。 このほか、トロリーポールはパンタグラフと異なり、走行方向が固定されるというデメリットも。そのため、電車が折り返す際には乗務員がトロリーポールの向きを変える必要があります。これを解消するため、それぞれの方向用に別々のトロリーポールを搭載した車両も存在していました。 単純ながら扱いに手間がかかるトロリーポールは、路面電車やトロリーバスなどで採用されていましたが、パンタグラフなどの別の装置の普及や、そもそもの路線廃止などによって、次第に減少。1978年に京福電気鉄道の叡山本線・鞍馬線(現在は叡山電鉄の路線)でパンタグラフに置き換えられたことで、レールの上を走る鉄道路線からは消滅しました。 その後もトロリーポールが使われていたのが、立山黒部アルペンルートを走る「関電トンネルトロリーバス」と「立山トンネルトロリーバス」の、2つのトロリーバスでした。しかしアルペンルートでも、前者は2018年度に電気バスへ置き換えられたことで廃止。後者でも、2024年11月30日の運行終了をもって廃止となる予定で、国内の営業路線からトロリーポールが消滅することとなります。 日本の営業路線では見られなくなるトロリーポールですが、国外では、香港の路面電車のように、まだまだ採用している路線が存在します。また、日本国内でも、敷地内の遊具という扱いですが、明治村で動態保存されている京都市電の車両が、トロリーポールを現役で使用しています。
西中悠基